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大興設備開発事件

(大阪高裁平成9年10月30日判決)

 

採用時に60歳を超えていた者に対する就業規則の退職金に関する定めについて、就業規則には高齢者及びパートタイムの従業員にも適用されることを前提とした定めがあること、高齢者に退職金を支給しないという明文の定めがないことから、適用があるとした。

 

【事案の概要】

 

Yにおいては、正社員の他に、年齢が60歳を超え、年金を受給しながら働く高齢の従業員(高齢者)とパートタイムの従業員を雇用していた。

 

Yが、平成6年12月に労働基準監督署に届け出た本件就業規則は、規定の上で、適用対象を正社員に限定しておらず、高齢者を適用対象とする就業規則が別に制定されてもいなかった。本件就業規則には、従業員が退職したときは退職金を支給する、ただし、勤続3年未満の者については退職金を支給しない旨の定めがある。

 

Yに雇用された当時すでに60歳を超えていたXは、退職後、Yに対して退職金の支払を請求した。

 

なお、Yは、Xから訴訟を提起された後に、正社員を対象とする就業規則と高齢者及びパートタイム従業員を対象とする就業規則の2つを制定しており、後者には、高齢者及びパートタイム従業員に対しては退職金を支給しない旨の定めがある。

 

【判決の要旨】

 

1 まず、本件就業規則が高齢者に適用されるかどうかについて検討する。

 

先にみたとおり、昭和58年から平成7年までの間、平成6年12月に制定された本件就業規則及びそれ以前の旧就業規則は、いずれも適用対象を正社員と高齢者に分けて規定しておらず、規定の内容も従業員全般に及ぶものとなっていたのであり、本件就業規則の中には高齢者及びパートタイムの従業員にも本件就業規則が適用されることを前提とした第6条5項((高齢者中途採用は、別途定めるものとする。))、第20条1項((短時間労働者の年次有給休暇については別に定める。))の規定がある。したがって、本件就業規則は高齢者にも適用されると解するのが相当である。

 

Yは、本件就業規則を高齢者やパートタイムの従業員を除く正社員に適用することを念頭に置いていたので、制定に当たり、正社員には説明会を開き、代表者の意見を聞き、できあがった規則を正社員に見せたが高齢者には示していないと主張する。しかし、就業規則には法的規範性が認められており、本来的に労働条件の画一的、統一的処理という点にその本質があり、それ故に合理性をもつものといえるから、その解釈適用に当たり就業規則の文言を超えて使用者であるYの意思を過大に重視することは相当ではない。したがって、Y主張のような事情があるとしても、先にみたとおり、平成8年1月に至るまでは高齢者やパートタイムの従業員に適用される就業規則が別に定められていたものでもなく、本件就業規則の規定の内容が従業員全般に及ぶものとなっていて、高齢者には適用しないという定めはないのであるから、本件就業規則は高齢者であるXにも適用されると解するのが相当である。

 

もっとも、Yにおいては、高齢者の賃金を年金受給の障害にならないように低額に抑え、それに関連して諸手当、勤務日数等についても正社員とは異なる取扱をしており、このような取扱は年金を受給している高齢者の立場からも是認されるものであるから、不合理な差別ということにはならないのであって、賃金、諸手当の抑制、月間勤務日数の限定などの必要から、本件就業規則の各条項が高齢者に全面的に適用されるものとはいえず、事柄によっては適用されない事項があるというべきである。

 

2 そこで次に、本件就業規則中の退職金に関する定めがXに適用されるかどうかについて検討する。

 

先にみたとおり、本件就業規則には高齢者に退職金を支給しないという明文の定めがなく、勤続3年未満の者には退職金を支給しないとの定め以外の適用排除規定が見当たらず、退職金は基本給と勤続年数を基礎にして算出される定めとなっており、Xについても右定めによって退職金を計算することが可能であることが認められる。そして、Xは、他の会社で働き60歳に達し、年金を受給できるようになってからYに採用された者であり、60歳時にYから退職金を支給された者ではない。このような事実関係のほかに、就業規則によって支給条件を定められた退職金には賃金という性質があることを否定できないこと、退職後の支給であるため年金を受給しつつ労働を続けるために賃金や諸手当を低額に抑えるという要請を受けないことを併せ考えると、高齢者であるXについて、本件就業規則の退職金の定めを適用できないと解すべき根拠はないというべきである。

 

そうすると、本件就業規則中の退職金に関する定めは高齢者であるXにも適用されると解するのが相当である。