判例―懲戒解雇を普通解雇に― (2003年3月号より抜粋)  
   

 

 
 

懲戒を普通解雇に― 会社側が逆転勝訴

懲戒解雇すべきところを、「本人の将来をおもんばかって、普通解雇する」のは、よくある話。しかし、法律的にいうと、いつでも懲戒解雇を普通解雇に転換できるとは限りません。本事件では、最終的に会社側勝訴となったものの、「懲戒解雇の決定があったときは、普通解雇する」というあいまいな表現をどう解釈するがが、一大争点となりました。

一般社会では「揚げ足取り」の一言で片付けられることも、大真面目で論議されるのが法律の世界です。

原告社員は、不正をマスコミに公表し、経営陣の総辞職を求めましたが、被告会社は解雇で対抗しました。会社の就業規則では、普通解雇事由の一つとして、「懲戒解雇の決定があったとき」を挙げていました。原告の処遇を巡って、人事委員会が開かれ、懲戒を相当とする答申は出されていましたが、「解雇」という決定は下されていませんでした。会社としては、温情的に、懲戒処分を一等減じて、普通解雇に変えたつもりだったわけです。

ところが、解雇の正当性をめぐる第一審判決では、「就業規則の規定は、普通解雇をなしえるのは当該事由について懲戒解雇の決定がなされた場合に限定したもの」であるから、その決定がなされないまま実施された普通解雇は無効と判示しました。会社にとっては、まさに驚天動地の結論です。

二審(本判決)では、次のように述べて、一審の判決を覆しました。「そもそも、この規定は、職員に懲戒解雇事由があり懲戒解雇処分が相当な場合であっても、被解雇者の個人的事情その他諸般の事情から被解雇者に有利な処分をする余地を、会社の裁量に委ねたものと解するのが合理的である」。こちらは、会社の思うところを、余すところなく汲み取った常識的な判断です。

ただし、判決では、就業規則のあいまいさについて、くぎをさすことも忘れていません。「この規定が文理上、懲戒解雇事由の存在ではなく、懲戒解雇の決定と定めているところからすると、懲戒解雇事由が存在する場合において、同号により普通解雇をすることができるのは、当該事由について懲戒解雇の決定行為がいったんされた場合に限定したものと解し得ないではない」。

文言上は誤解の余地があるが、合理的に解釈すれば、上記のように読み取る他ないというのです。一審・二審で判断が分かれたように、実は結構、際どい勝負だったのです。

解雇は、労働者に多大な不利益をもたらします。

経営者の恣意的な判断で好き勝手にクビを切られたのでは、労働者はたまりません。このため、裁判所は、解雇の問題に対しては、とくに厳しい態度で臨みます。最終的に、本事件では普通解雇の正当性が認められましたが、就業規則の規定の仕方ひとつで、とんでもない落とし穴に陥りかねないことは、肝に銘じておくべきです。

 

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