判例―歩合制の導入― (2003年4月号より抜粋)  
   

 

 
 

総人件費抑制でない― 移行の手続きも妥当

K商事事件 大阪地方裁判所(平14.7.19判決)

営業社員の働きが悪いとき、真っ先に思い浮かぶ対応策は、歩合給制の導入でしょう。本事件は、制度改定に伴い大幅に賃金ダウンした社員が、退職後に、旧制度に基づく賃金額との差額支払いを求めたものです。しかし、裁判所は、歩合給制への移行には合理性があるとして、請求を棄却しました。

歩合給を適用する条件は、チームでなく個人単位で業務を担当し、その成果を目に見える数字で表せることと要約できるでしょう。原告の担当業務は、商工ローン会社の営業で歩合給にはおあつらえ向きの職種といえます。

実際には、古株の社員がおいしい仕事を手放さず、新しい社員は新市場開拓で苦しい思いをするなど、なかなか難しい面もありますが、やはり「数字」による評価は、有無をいわせぬ説得力をもっています。実績の上がらない社員の賃金を引き下げる場合、泥臭いようですが、その効果は侮りがたいものがあります。訴えを起こした社員たちは、入社当時は月給制で働いていました。

しかし、同業会社間の競争が激化したため会社は営業社員を対象に、基本給と精勤手当以外は顧客件数・貸出残高に応じて手当を支給する方針を打ち出し、その後も、漸次、基本給の減額措置を講じました。

原告たちは、歩合は稼げず、基本給は減るというダブルパンチに、しばらくは耐えていたものの、ついに退職に踏み切り、会社に対し、歩合給制への移行は無効であり、旧規定に基づく賃金との差額を払えと請求しました。

歩合給制への移行について、裁判所は「会社は新たな給与体系の詳細を記載した書面を従業員に回覧させ、これを閲覧可能な場所に掲示したこと、歩合給制の導入により営業社員10人中6人の賃金手取額がそれ以前の手取額を上回ったこと」などを理由に、その合理性を認めました。

会社側の勝因は、まず第1に、移行に当たって必要な手順を尽くしていたことです。これに対し、原告たちは、特段抗議することなく、減額された賃金を受領し続けていました。そこで、裁判所は、「賃金を会社側が一方的に減額することは認められないが、本件の場合、黙示で承諾していたものと認められる」と判断しました。

勝因の第2は、総人件費を縮小することなく、移行を実施したことです。給料が下がった社員ばかりでなく、上がった社員もいた点が重要です。判決文では、「歩合給制が直ちに従業員に不利益な賃金体系であるとはいえないし、むしろ営業社員の中には成果主義導入を歓迎する者もいた」と述べています。

この2つのポイントを踏まえていないと、会社側が負ける恐れが強いので、肝に銘じておくべきです。

なお、歩合給制だからといって時間外割増の支払いを免れることはできず、この点に限っては、原告たちの請求が通っています。

 

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