判例 内部告発者の懲戒解雇は不当 (2003年7月号より抜粋)  
   

 

 
 

不正疑惑を糺すため違法性は減殺される

従業員が会社の秘密を守るのは、当たり前のこと。しかし、社会的正義を守るための内部告発は、絶対に許されないのでしょうか。本事件は、この難しい問題を扱ったもので、労働組合役員が会社の不正を追及するなかで情報漏洩が起きました。一審では懲戒解雇した会社側の言い分が認められましたが、二審では労働者側が逆転勝訴しています。

M信用金庫事件 福岡高裁宮崎支部(平14・7・2判決)

リコール隠しや原子炉のトラブル隠しなど、企業不祥事が明るみに出るキッカケとして、内部告発が重要な役割を果たしています。現在、内閣府では、告発者を解雇や不利益扱いから保護する「公益通報者保護制度」の法制化を検討していると聞きます。

本事件は、信用金庫の労働組合が、金庫側に不正疑惑案件の解明と善処を求めている最中に発生しました。組合の執行役員2人が、業務遂行のために交付されたオペレーターカードを使用して、顧客に関する信用情報等を無断で取得し、外部に漏らしたのです。金庫側はこの規律違反を理由に、2人を懲戒解雇しました。

一審では、「金融機関は、顧客の信用情報等の機密情報を厳格に管理し、その秘密を保持すべき重大な義務を負っており、この義務の遵守は、金融機関の存立と事業の円滑な運営のための絶対的な要件である」と述べ、「目的が正当であれば、これを実現するための手段までが当然に正当となるとはいえない」と判示しました。

「あそこの信用金庫で、顧客情報が外に漏れたそうだ」、そんなうわさが流れたら、営業に大被害を受けるのは必然です。これは、「金庫の職員として、絶対にやってはいけないこと」だというわけです。これはこれで、うなずかざるを得ない妥当な判断という気もします。

しかし、二審はその判決を覆しました。判決文では、「2人の追及が発端となり、信用金庫において関係職員を懲戒し、理事の監督責任を認めて減俸等を行う事態が繰り返され、その一部は刑事事件に発展して関与した元理事や元職員が逮捕された案件もある」という事実を踏まえ、「2人はもっぱら信用金庫内部の不正疑惑を解明する目的で行動していたもので、内部の不正を糺すという観点からはむしろ信用金庫の利益に合致するところもある」と認定しました。

結論的には、「各行為の違法性が大きく減殺されることは明らかであり、信用金庫の懲戒解雇事由に当たると仮定してみても、相当性を欠き、権利濫用に当たり無効である」という判断が下されています。

企業不祥事が続発するなか、企業のコンプライアンス(法令等の順守)を求める世論も高まりを見せています。「公益通報者保護制度」の創設という動きをみても、今後、企業側の都合より、社会的正義の実現が重視される方向に進むでしょう。情報機器の発達で、思わぬところから秘密が漏れ、かつ世間に流れる事態も増えると予想されます。企業倫理の確立が、求められます。

 

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