判例 復職の申し入れ拒んだのは不当 (2003年8月号より抜粋)  
   

 

 
 

休職中の賃金支払え。就労可能と判断下す

大半の企業では、就業規則上、私傷病休職の規定を設けています。病気がまったく治らなければ話は簡単ですが、軽度の作業ならOKというケースが問題です。本事件では、トラック運転手が負担を軽減した業務なら可能と復職を申し出たのに対し、会社が引き続き休職を命じたケースです。一審、二審ともに、作業可能と認められた時期以降の期間について、賃金の支払義務を認めました。

大阪高等裁判所(平14・6・19判決)

「病気が軽快したんだったら、軽作業から身体を慣らしていけば?」、普通の正社員が対象なら、会社側もそういったでしょう。しかし、本件の従業員は、大型貨物自動車運転手として採用されました。長距離輸送も含む大型トラックの運転には、相応の体力が求められます。「運転手として採用したんだから、その仕事ができるようになるまで休んでいなさい」という会社側主張にも一理あります。

事件の経過をたどると、こうなります。運転手は慢性腎不全で病気欠勤が続いたため、会社の就業規則に基づき休職6ヵ月後に私傷病休職が発令されました。休職に入って1年3ヵ月後に本人から復職したい旨の申し入れがありましたが、会社は産業医の意見を盾にこれを拒みました。

このため、労働組合が間に立って話を進めた結果、再度、産業医の診断を受け、軽作業なら就労可能という判断が下されました。しかし、会社は、病気が全快するまで休職発令を撤回しない姿勢を貫きました。そこで、休職期間中の賃金支払に関する裁判が起こされたわけです。

一審では、最初に復職を申し出た時期以後の賃金支払いを命じました。二審(本判決)も、基本的には従業員側勝訴ですが、賃金支払いを認める時期を限定しました。

二審では、会社側が全快するまでは就労可能性に関する検討をまったくといっていいほど怠った点が問題となりました。運転手は、最初の申し入れの後、産業医ではなく、一般の医師の診断書を根拠に就労可能と主張しました。判決文では、少なくともこの時点で「客観的な健康状態と就労可能かどうかについて検討すべきであった」と会社の非を認めています。

そのうえで、裁判所は2度目の産業医診断を基に、現実に就労可能となった日を判断しました。もちろん、その時点でも、従前とまったく同じ業務ができたわけではありません。「会社としては、長距離の運転業務と近距離の運転業務とのローテーションを組んでおり、病気回復半ばの運転手を受け入れるとローテーションが乱れるおそれがあった」と述べています。

しかし、「本人の病状悪化の可能性がそれほどでなく、運転業務の危険等もないような場合には、業務に与える不利益と就労可能性を慎重に検討すべきであり、本件では看過しがたい不利益があったとは認められない」として、運転手側の主張に軍配を上げました。多少の不利益はあっても、就労の場所を与える工夫が求められるという判決の趣旨は、経営者として肝に銘じておくべきでしょう。

 

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