長期休暇を取った社員へのマイナス査定 (2004年3月号より抜粋)  
     
 

長期休暇を取った社員に対しマイナス査定しても問題はないでしょうか

 

Q

当社の研究職のことで、相談があります。本人から、研究のため、3週間、年休を取ってアメリカに行きたいと申請がありました。年間計画の達成に支障がないと言い張るので許可しましたが、仮に業務に悪影響が出た場合、人事考課でマイナス評価しても問題はないでしょうか。

 

 
 

A

能力・情意評価でマイナス査定はいけない

年休は、労働者に認められた当然の権利です。ですから、その行使にブレーキをかけるような不利益処分を課すことは、公序良俗違反とみなされます。

労働基準法第136条では、「有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない」と定めています。

ここでいう「不利益な取扱い」には、賞与の査定で年休取得日を欠勤扱いすることのほか、取得を抑制するようなすべての措置が含まれます。

貴社が、3週間の年休取得を理由に、年間の人事考課で低査定することも、この禁止項目に含まれます。本来、年休の指定は労働者が一方的にでき、事業主はその理由を尋ねる権利もないと解されています。

例外的に、複数の申請が競合し、いずれかについては時季変更権を行使せざるを得ない状況のときは、理由を確認することにも合理性が認められます。

しかし、長期の休暇申請では話が違います。時事通信社事件(最判平4・6・23)では、「労働者が年次有給休暇の日数の範囲内で始期と終期を特定して長期かつ連続の時季指定をした場合には、これに対する時季変更権の行使については、使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ない」と述べています。ですから、貴社が年休取得の理由や業務への影響を確認したのは、特段、差し支えないと考えられます。

しかし、いったんその年休を認めた以上、取得を理由にマイナス評価することは許されません。ただし、マイナス評価が何を指すかは、詳細に検討する余地があります。貴社が考課制度を整備し、業績(目標管理に基づく成果評価)、能力、情意の3つの角度から従業員を評価しているとしましょう。長期の年休取得を理由に、「やる気がない」といって、情意評価で低い点をつけることはできません。同様に、能力評価についても、年休の影響を考慮することは許されません。もちろん1年を通してすべて勤務期間がないなど特別の事情がある場合は別です。

しかし、業績評価に関しては、期初に立てた計画に比べ、達成度が低ければ、低査定しても何ら差し支えありません。本人は、年休取得も考慮して達成可能な目標を設定すべきだったし、年休による空白期間を他の期間の頑張りでカバーすることも可能だったはずだからです。

来年以降、「年休取得を断念するように」という無言の圧力をかける意味で、意図的に業績査定で低評価することは許されません。しかし、淡々と達成度評価して、その結果が低ければ、評価ランクが下がるのは当然です。

 

 
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