解雇予告中の賃金 (2004年10月号より抜粋)  
     
 

成績不良者に解雇通告したが就労を拒否し6割の休業手当を払えば良いか?

 

Q

営業成績低劣で、ここ数力月1件の契約も上げていない社員がいます。本人に普通解雇を通告しましたが、出社しても何ら成績が上がらないのは分かっているので、残り30日は就労を拒否したいと考えています。賃金の6割の休業手当さえ支払えば法的問題は生じないという理解で間違いないでしょうか。

 

 
 

A

労働基準法と民法で扱いが違う

成績不良を理由とする解雇は、「さらに体系的な教育、指導を実施することによって、その労働能率の向上を図る余地もある」ときには権利濫用で無効とみなされるおそれもあります(S・エンタープライズ事件、東京地裁平11・10・15)。

十分に教育の機会を与え、上司も指導の努力を重ねたうえで、成績不良を理由とする普通解雇という決断を下す必要があります。しかし、ここでは普通解雇自体は有効として話を進めましょう。

労働基準法法第20条では、事業主に対し、解雇前30日に予告するか、または30日分の予告手当を支払うことを義務付けています。

このため、解雇を予告しながらその後の就労を拒否し、30日分の賃金ではなくその6割しか支払わないことは、実質的な脱法行為にほかならないとする見解もあります。貴社もこの点を、心配されているのでしょう。

しかし、厚生労働省の解釈は「予告期間中といえども労働者には民法第536条第2項による賃金全額請求権が確保されており、労働関係は正常に存続しているので、これを違法と解することはできない」(昭24・12・27基収第1224号)というものです。

民法第536条第2項では、「債権者の責めに帰すべき事由によりて履行をなすことを能わざる時は債務者は反対給付を受ける権利を失わず(原文カタカナ)」と規定しています。これを労働関係に当てはめると、「会社の責めに帰すべき事由により労務の提供ができないときは労働者は賃金を受ける権利を失わず」とパラフレーズできます。

つまり、会社責任で休業させると、100%の賃金請求が可能なのです。労基法に基づく休業手当と民法に基づく全額請求権の関係ですが、一般には労基法の方が適用範囲が広いと解されています。

つまり、両者が競合し、どちらの権利も主張できるケースと、休業手当の請求権だけが生じるケースあり得るということです。労基法コンメンタールでは、「使用者の故意、過失による休業は、労基法第20条の使用者の責めに帰すべき事由に該当する。この場合は、民法第536条第2項の適用と競合する」と説明しています。

ですから、貴社が合理的な理由なく「故意」に休職を発令したとしても、労基法上は、「違法と解することはできない」、つまり刑事罰を問われることはありません。

しかし、民法の規定により、本人が裁判を起こせば、残り4割の請求が認められる可能性大です。休職を命じる根拠が本当にあるのか、事前に周到な検討が必要です。

 

 
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