判例 派遣労働者の不始末と派遣元の責任 (2004年10月号より抜粋)  
   

 

 
 

人材ビジネス会社が責任を負う

派遣労働者が派遣先会社で、「不都合な事件」を起こすのは、ままある話です。この場合、派遣先会社は派遣元の入材ビジネス会社に対して、損害賠償を請求できるのでしょうか。判決文では、原則として使用者(つまり派遣労働者を直接雇用している派遣元会社)側が責任を負担すると述べましたが、この事件は派遣先にも不注意があったとして、5割の過失相殺を認めました。

東京地方裁判所(平15・10・22判決)


派遣が合法化されたのは昭和61年の労働者派遣法施行から、派遣業が大幅に伸びたのは平成11年の原則自由化からです。まだ、歴史は長くありません。ですから、「派遣労働者の不始末」をめぐる判例もまだ少数で、処理の枠組みが確立したとはいえない状況です。

派遣先は、契約時に「何か不都合があれば、私ども(派遣元)が全部責任を持ちます」という約束だったから、当然、求償が可能と考えます。一方、派遣元は、「派遣先の指揮監督下で起こした事故までは、責任を負いかねる」と主張します。どちらも、一理あるのは確かです。

本件では、派遣社員Aらが、派遣先で事前研修を受けた後、指定地区内で営業訪問に従事していました。Aらが申込書を偽造したため、派遣先は提携先からの契約を打ち切られるという大打撃を受けました。さあ、どちらが責任を負うのか、という問題です。

裁判所は、「Aらは派遣元との間で雇用契約を締結し、(略)労働の対価である賃金は派遣元から支給され、派遣元は派遣先から派遣料の支払いを受けてAらの労働により利益を得ていたものである。

このような関係からすれば、派遣元は民法第715条が被用者の加害行為につき責任を負わせることとしている使用者に当たる」と判示しました。民法第715条では、「事業のために他人を使用する者は被用者がその事業の執行につき第三者に加えたる損害を賠償する責めに任ず」と規定しています。派遣元が使用者、派遣先は「第三者」に該当するという整理です。

ただし、派遣先が100%責任を逃れたわけではありません。「派遣元にAらの選任、監督につき過失があることは明らかであるが、派遣期間中は派遣先の指揮監督下にあるため、その動向の確認等は容易ではないといえる。そして、派遣先にも相当な不注意があったというべきである」などの理由で、5割の過失相殺が認められました。

つまり、派遣元・派遣先が5割ずつの折半負担、両者痛みわけという結果に終わりました。

本件では、「Aらの犯した行為は私文書偽造という犯罪行為であった」点も勘案して、過失相殺割合が5割と高めに設定されました。事案によっては、派遣元の負担がもっと大きくなる可能性が高いといえそうです。

しかし、派遣先がすべての責任を派遣元に押し付けるのも、簡単ではありません。派遣社員といえども指揮監督の責任は派遣先にあるのですから、自社の従業員と同じように厳正な態度で接するべきといえます。

 

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