スピード違反と通勤災害 (2005年9月号より抜粋)  
     
 

スピード達反を犯してしまったら通勤中の事故でも保険給付は出ないのでしょうか?

 

Q

先日、部下の車に同乗させてもらいましたが、運転が乱暴なのに驚きました。この従業員は、通勤にもマイカーを使っています。仮に交通ルールを無視して事故を引き起こした場合、通勤災害として補償の対象になるのでしょうか。

 

 
 

A

保険給付のカットあり得る。違法性小さければ保護対象。

自動車保険では、事故を起こした場合、自分方・相手方の過失割合を考慮して、補償金額を決定します。労災保険も保険の一種ですから、自分方に非があった場合、どのように扱われるのか、気になるところでしょう。

ご質問にあるように、交通規則違反を起こした場合、「通勤災害と認められない」のでしょうか。労災保険法第7条第2項では、通勤災害を「就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路および方法により往復するもの」と定義しています。マイカーで遠回りせず、通常の通勤経路を走っていたのなら、「合理的な経路」という要件は満たすでしょう。しかし、交通違反を犯すような走り方が「合理的な方法」といえるでしょうか。

この点に関し、労災保険法のコンメンタールでは、「例えば免許を一度も取得したことがないような者が自動車を運転する場合や、泥酔して運転する場合には、合理的な方法と認められない」と解説しています。つまり、通勤災害そのものと認められない可能性もあるということです。

しかし、「軽い飲酒運転の場合、免許不携帯の場合」等、必ずしも合理性を欠くものとして取り扱う必要はないと付記されています。お尋ねのケースでも、免許保有者の運転が多少乱暴で、スピード違反や信号無視があったからといって、直ちに通勤災害制度の保護を受けられなくなるとは考えられません。

ただし、労災保険法第12条の2の2に、「支給制限」の規定が設けられています。その第2項では、「故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、負傷、疾病、障害若しくは死亡若しくはこれらの原因となった事故を生じさせたときは、保険給付の全部又は一部を行わないことができる」と規定しています。

当たり屋のような特殊な例を除いて、好き好んで交通事故を起こす人はいません。しかし、事故を発生させる意図がなくても、スピード違反等を犯すのは、労働者として著しく注意を欠く行為です。このため、そうした不注意等により事故を引き起こした場合には、支給制眼の対象とするものです。

「故意の犯罪行為若しくは重大な過失」とは、「事故発生の直接の原因となった行為が、法令(労基法、鉱山保安法、道路交通法等)上の危害防止に関する規定で罰則の付されているものに違反すると認められる場合」と解されています(昭40・7・31基発第906号)。支給制限の率は、「保険給付の都度所定給付額の30%」です。

従業員に対しては、保険給付のカットがあり得ることを説明したうえで、日々の安全運転を要請すべきでしょう。

 
  労務相談と判例> 労災、通勤災害の相談

Copyright (C) 2005 Tokyo Soken. All Rights Reserved

東京労務管理総合研究所