判例 病気の家族がいる従業員への転勤命令 (2006年3月号より抜粋)  
   

 

 
 

病気家族に配慮欠く 育児介護休業法で規制強化

病気の家族がいる従業員に、転勤を命じた場合、強硬に拒否されるおそれがあります。判例では、一般に広く会社側の裁量権を認める傾向がありますが、育児介護休業法に基づく配慮義務には注意が必要です。

本事件で、裁判所は、要介護者の存在が明らかになった時点でも会社が実情調査を怠った点を指摘し、配転命令を無効と判示しました。

神戸地方裁判所姫路支所(平17・5・5判決)


日本の社会では、「サラリーマンなら、辞令一枚で遠い場所に飛ばされても当たり前」と目されています。しかし、会社勤めの人すべてが、転勤の義務を負っているわけではありません。入社時等に、「勤務地限定の約束がない」のが条件です。ですから、一般に現地採用のパート等は、転勤の対象になりません。

会社に転勤を命じる「契約上の根拠」があれば、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益等」がない限り、従業員側ば拒否できません。しかも、裁判所は、「通常甘受すべき程度」の判断に関しては、従業員の立場からみて、非常に厳しい判断を下してきました。単身赴任レベルの不利益は、ほとんど問題にもされません。

しかし、平成13年の育児介護休業法改正(平成14年4月施行)で、会社に対し一定の配慮義務が課された点には、注意が必要です。育児介護休業法第26条では、「(転勤により)子の養育又は家族の介護が困難になる労働者がいるときは、子の養育又は介護の状況に配慮しなげればならない」と定めています。その具体的内容については、「職業生活と家庭生活の両立指針」のなかで、「子の養育又は家族の介護の状況を把握すること、労働者本人の意向を斟酌すること、子の養育又は家族の介護の代替手段の有無の確認を行うこと」を挙げています。

本事件では、従業員に「勤務地限定の約束」はなく、従事していた業務そのものが廃止となったため、配転命令が下されました。配転を命じる「契約上の根拠」があり、業務上の必要性も高いので、後は「不利益が、通常甘受すべき程度か否か」をみるというのが、判例実務上の流れです。配転を拒否した2人の従業員には、それぞれ非定型精神病に罹患した妻と、要介護状態にある母がいました。病人等がいる場合、判例はケース・バイ・ケースで、転勤命令が有効・無効どちらの判例も多数存在し、どんな判断が下されるか、ちょっと予想はつきかねます。

しかし、本事件では、裁判所は「育児介護休業法第26条による配慮の有無は、配転命令権の行使が権利の濫用となるかどうかの判断に影響を与えるということはできるところ、要介護者の存在が明らかになった時点でもその実情を調査しないまま配転命令を維持したのは、配慮として不十分であった」と述べました。結論的には、配転命令ば無効という判断が下されています。会社側の対応が甘かったといわざるを得ない事件で、他山の石とすべきでしょう。



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