年休取得時の通勤手当カット (2006年8月号より抜粋)  
     
 

退職者が残りの年休を消化する期間の通勤手当をカットできないか?

 

Q

長期勤続者が退職を前にして、30日の年休を取得しました。これは法定の権利なので認めざるを得ないのですが、最後の1カ月半近く(年休30日+公休日)については、日割りで通勤手当をカットしました。法的に問題ない措置だと考えますが、本人は違法だと主張しています。どうすべきでしょうか?

 

 
 
 

根拠規定なければ不可

通勤手当は、労基法等で支給を義務付けられた賃金項目ではないので、労使が話し合いで支給条件を決めることができます。就業規則等で要件が定められれば、それに従って支払う義務が生じます。

たとえば、私傷病休職が発令された社員に対して、通常、通勤手当は支払われません。これは、他の基本給等も含め、「私傷病休職者には基準賃金を支払わない」等の根拠規定があるからです。通勤しないという理由で、自動的に手当をカットする権利が生じるわけではありません。

通勤手当は、普通は、会社と自宅の往復に要する費用をベースとして定めます。しかし、正社員等の場合、1月当たりの定額で支給するケースがほとんどで、実際に通勤に要した費用が通勤手当を下回っていても、差額を徴収することはできません。パート等を対象に、「出勤日ごといくら」という定め方をしていれば、もちろん、出勤しない日について手当を支払う必要はありません。

就業規則上に、何日以上の長期年休を取得した場合、通勤手当の支給を停止するという規定がある企業は、皆無でしょう。根拠規定がない以上、恣意的に手当をカットすることは許されません。労基法第39条第6項では、年次有給休暇中の賃金について、

  1. 平均賃金
  2. 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
  3. 標準報酬日額

のいずれかを支払うよう定めています。一つひとつみていきましょう。

まず、平均賃金は、過去3ヵ月の賃金総額を暦日数で除して計算します。賃金総額から除外できるのは、臨時に支払われた賃金、3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金、現物給与のうち一定範囲のものだけです。通勤手当は賃金総額に含まれます。たとえ、6カ月分前払いしても、「3ヶ月を超える期間ごとに支払う賃金」とは認められません。「定期乗車券は労基法第11条の賃金であり、6カ月定期乗車券であっても各月分の前払いとして認められるから平均賃金算定の基礎に加えなければならない」(昭25.1・18基収第130号)という解釈例規があります。

「所定労働時間労働した場合に通常支払われる賃金」は、残業なしで働いている期間中の労働日一日当たりの賃金ですから、通勤手当も含まれています。

標準報酬日額を決定する際にも、通勤手当は、現物給与を含め報酬とみなされ、金額算定のベースになります。

ですから、いずれの計算方法を取る場合も、通勤手当を控除して支払うことはできません。

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