判例 試用中の即時解雇もやむなし (2006年10月号より抜粋)  
   

 

 
 

派遣後すぐにトラブル 会社の信用を損なうおそれ

試用期間中に従業員として不都合な行為があれば、「『試用』の趣旨からいって、即座に解雇できる」と考える経営者が少なくありません。しかし、生半可な理由では、裁判所はなかなか解雇の正当性を認めません。本事件ではさすがに会社側が勝訴しましたが、「社会通念上、解雇もやむを得ない」レベルの非違行為とはどんなものか、後学のための参考にしてください。

Fスタッフ事件 東京地方裁判所(平18・1・27判決)


登録型の派遣事業を営んでいる被告会社では、雇った社員が適性に欠ける場合、速やかに対処できるように14日の試用期間を設けていました。

労働基準法第21条では、30日前の解雇予告(または30日分の解雇予告手当)が不要な労働者として、次の4タイプを挙げています。

  • 日雇労働者

  • 2ヵ月以内の期間雇用者

  • 4ヵ月以内の季節労働従事者

  • 14日以内の試用期間中の労働者

試用期間中でも原則的には解雇予告が必要ですが、雇入れてから14日以内は例外です。派遣元は、これを考慮して14日の試用期間を設けていました。

果たして、雇入れ後、すぐに事件は起きました。判決文によると、「(解雇不当として訴えを起こした派遣社員は)、初日の待ち合わせ場所に定刻15分を過ぎても現れず、電話連絡もなかった」「2日目の午後には、着席した派遣社員間で飴を回していたところ、本人が飴を受け取らず、次の人に回すのも拒否したため、隣の派遣社員と口論になった。本人は、『ケンカを売っているのか!』などと大声を上げた」というものでした。

派遣先の会社は、受入はムリと判断し、派遣元に交代を要求しました。派遣元は、事実関係を確認のうえ、試用期間中の即時解雇という処置を選択するほかありませんでした。

ところが、本人は承服しません。「(この人の社会常識によれば)、この程度のことで解雇するのは権利の濫用で、次の派遣先に配転するよう努める義務がある。また、有期雇用契約に試用期間の適用はない」というのです。

裁判例のすう勢をみると、労働者保護の観点から「解雇権の濫用」という主張を認めるケースが少なくありません。企業人の「社会通念」と裁判所の「社会通念」を比べると、大きな隔たりが存在するのが普通です。

しかし、本事件では、さすがに裁判所も労働者側の主張を退けました。「当人には、社会人としての常識的な対応に欠ける自己中心的な言動が顕著であるといわざるを得ず、今後の仕事遂行に会社が不安を抱くのはもっともなところがある」と述べ、解雇の正当性を認めました。有期契約に試用期間を設けた合理性についても、「派遣社員の質や会社の信用・評判等を維持するためには必要な対応である」と肯定しました。

結果的には会社の勝利ですが、このレベルの「明々白々な不適格性」が立証されないと、なかなか解雇は難しい点には注意が必要です。




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