判例 休職者に直ちに復職を認める義務ない (2007年4月号より抜粋)  
   

 

 
 

病気休職者が就労申請 16日の待機は許容内

病気休職後、本人が復職したいと申し出た場合、会社は速やかに職場復帰の手続きを取ります。しかし、「明日からすぐ」とはいかないケースも少なくありません。復帰が遅れた場合、会社はその間の賃金等を補償する義務があるのでしょうか。裁判所は、16日間のタイム・ラグが生じたケースについて、手続には相当期間が必要で、会社の責めに帰すべき事由はないと判断しました。

大阪地方裁判所(平18.3.24判決)


本事件の焦点は、病気休職者に対する解雇の合理性の有無です。復帰時期の遅延と賃金の関係は、むしろ付随事項といえます。しかし、大変参考になるケースなので、こちらを中心に取り上げます。

訴えを起こした従業員は、精神的理由による不眠や嘔吐を理由に欠勤が続いたため、私傷病休職を命じられていました。ところが、休職期間中に業務が他社に移管され、本人の元職場が消減する事態となりました。

財団は退職を勧奨しましたが、本人は拒絶し、やがて職場復帰が可能とする医師の診断書を提出しました。復帰させようにも職場がないのですから、財団は苦慮の一策として、過去の能力不足、協調性欠如等の理由を持ち出して、解雇しようとしました。

結論的には、そんな「出し遅れの証文」に基づく解雇が認められるはずもありません。「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することはできず、無効である」と判断されました。

従業員としての身分が確認されたのですから、財団としては不当な解雇により失われた賃金を補償する義務を負います。財団側は、12月1日から復帰可能という診断書の提出を受け、17日に一旦復職を認めたうえで、解雇するというプロセスを踏みました。そこで、浮上してきたのが、補償すべき賃金はいつからいつまでかという問題です。つまり、1日から復職可能なら、1日から起算した賃金を支払う必要があるのか否かが争点となります。

裁判所は、「診断書が提出されたとしても、具体的な復職の日を決定するまでには相当の時間を要する」ため、復職を決定した17日以降の賃金が補償の対象になるという判断を示しましたが、その理由が注目されます。

厚生労働省は、平成16年10月14日付で「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を公表しました(基安発第1014001号)。そのなかでは、従業員から職場復帰の意思が伝えられた場合について、「主治医による職場復帰可能の判断」「職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成」「最終的な職場復帰の決定」の3ステップに分けて、細かくなすべき事項を定めています。判決文では、この手引きを引用したうえで、「12月16日まで復帰を命じなかったことは、財団の責めに帰すべき事由があるとはいえない」と述べました。

半月程度の遅れはセーフという判定で、病気の内容により事情は異なるでしょうが、目安として参考になるケースといえます。



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