判例 「成果主義」への移行は合理的 (2008年1月号より抜粋)  
   

 

 
 

自己研鑽で挽回可能 性急だが許容範囲内

成果主義賃金に移行すれば、評価の高い人の賃金は上がりますが、逆のパターンもあり得ます。つまり、一部の人間にとっては、労働条件の不利益変更に該当するおそれがあるのです。本事件は賃金制度改正の可否が問われた事案ですが、一審は無効、二審(本判決)は有効と判断が割れました。ことほどさように、正当性の判断の難しい問題だということでしょう。

N研究所事件 東京高等裁判所(平18.6.22判決)


賃金制度を改正する際、会社は「良く働く人に報いるためだ」などと説明します。しかし、「総人件費を増やさないで」という前提条件を設けている場合がほとんどです。よく働く人を昇給させる原資は、そうでない人の賃金を下げることで賄うという算段です。

労働条件を変更するのですから、いわゆる「不利益変更」に関する法理を適用して、当否を判断します。本裁判も、その流れを踏襲しています。ただし、賃金制度についてやっかいなのは、一部の人には利益になり、他の一部の人には不利益となる点です。労働時問の延長のようにすべての人に不利益に作用するわけではありません。

一審(横浜地川崎支判平16.2.26)では、改正は無効と判断されました。二審(本判決)は、逆に有効と認めました。しかし、両裁判所の判断の差は思いのほか大きくありません。

一審でも、成果主義賃金そのものについては、「労働生産性と直接結びつかない形の年功型賃金体系は不合理であり、能力・成果主義に基づく賃金制度を導入することは合理的である」旨、述べています。二審では、「新賃金制度は、会社にとって重要な職務により有能な人材を投入するために、賃金原資の配分の仕方をより合理的なものに改めようとするものであって、どの従業員にも自己研鑽による職務遂行能力等の向上により昇格し、昇給することができるという平等な機会を保証している」等の理由で合理性を肯定しています。

他の判例でも、成果主義賃金への移行については、会社の裁量的判断を広く認める立場が支配的です。後は、そのやり方の問題です。

会社は、基本給が下がる社員に対し、1年目は調整給で全額補填、2年目は50%を補填、3年目からは調整なしで支給するという経過措置を設けました。一審では、「救済期間2年間はあまりに短く、減少額を回復することは困難で、代償措置は不十分」と述べ、改定は無効と判示しました。二審では、「経過措置はいささか性急で柔軟性に欠ける嫌いがないとはいえないが、不利益を受忍させることもやむを得ない高度の必要性がある」と判断を覆しました。

本裁判は、会社にとっては、薄氷を踏むような勝利といえるでしょう。これまで賃金制度が未整備で、従業員は年功主義にどっぷり漬かっていたという会社の場合、成果主義に向けてかじを切るとしても、移行のプロセスは穏当なものとすべきです。

成果主義という錦の御旗の下で、一部の従業員をバッサリ切り捨てるような拙速は避ける必要があります。


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