判例 退職勧奨と本意ではない退職願 (2008年6月号より抜粋)  
   

 

 
 

解雇を恐れて提出した 退職金額は会社都合で処理するべき

従業員を退職させたい場合、いさなり解雇を通告するのではなく、説得を重ね、「自発的に退職してもらう」形で処理するのがベターです。しかし、退職願さえ受け取ってしまえば、後顧の憂いがなくなるわけではなく、従業員の「本意」が問題となります。本事件は、退職処理後、従業員が会社都舎の退職金支給を求めたものですが、裁判所もその主張を支持しました。

G社事件 大阪地方裁判所(平19.6.15判決)


退職勧奨自体は、単なる提案(合意解約の申し込み)ですから、不当な行為ではありません。合意が成立して、従業員が退職願を出してくれれば、それで一件落着です。逆にいえば、命令ではないのですから、従業員側も説得に応じる義務を負いません。

「仕事の能率が遅い」、「ミスが多い」というのは、基本的には、人事考課で対応すべき問題です。しかし程度がはなはだしく、「もう職場において置けない」と判断せざるを得ない状況も生じます。

退職勧奨の出番は、こういうときです。本事件で、訴えを起こした社員は、商品の受発注、入出庫の整理等の業務に従事していましたが、「納期の遅れや顧客への態度など、多くのクレームが寄せられ、上司が再三注意、指導したものの改善されない」という勤務ぶりでした。

そこで、「業務態度に業を煮やした会社は、従業員に今後の身の振り方を考えるように告げ、暗に解雇の可能性をほのめかしながら退職を勧め」、決断を求めました。従業員も、「まな板の鯉」の心境で、最終的には、退職願を提出しました。

しかし、いざ退職金を払う段階になって、トラブルが発生しました。従業員としては、「会社が辞めろというから退職願を書いた」、つまり会社都合の退職だという思いがあります。しかし、会社は、退職願を受け取ったのだから、自己都合の規定に基づいて、退職金を計算するといいます。

裁判所は、「子供らが学費がかさむ年頃であったこと、再就職先や独立の目途があるわけではなかったことが認められ、自発的に退職を申し出るとは考えがたい。解雇される前に退職する道を選んだと考えるのが自然である」と述べ、「会社都合退職として処理すべきところ、会社側には過失があったという他ない」と断じました。

退職勧奨で、もう1つ問題になりやすいのは、「あまりに執拗で認容の限度」を超えるケースです。行き過ぎると、不法行為で損害賠償の対象にもなり得ます。

しかし、この点について、被告となった会社の取った対応は参考になります。判決文では、「一定期間経過後に改善状況を確認するとともに、クレームごとに問題点となる業務内容を整理した一覧表を作成し、これに基づき事実を確認した指導を行うなど、退職強要に向けた嫌がらせと評価されるものではない」と述べています。

このような形で、「職場から排除するほかない」事実を立証していけば、退職・解雇を巡るトラブルを一定限度、予防することができます。

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