判例 損害賠償金を退職金から控除不可 (2009年6月号より抜粋)  
   

 

 
 

頭割りで責任額算定 査定による減額ではない

仕事上のミスで会社に迷惑を及ぼしたという場合、会社は本人に損害賠償を求める権利が生じます。しかし、たからといって、退職金から損害分を一方的に控除できるものではありません。本事件で、会社は「成果・業績に基づき退職金を減額査定しただけだ」と主張しましたが、実質的に損害金を控除したに等しいとして、減額措置は無効と判断されました。

P社事件 東京地方裁判所(平20・3・28判決)


業務上、重大なミスがあった場合、懲戒解雇し、退職金も不支給とするのが一般的です。労基法第91条(減給制裁)との関係が問題になりますが、「懲戒解雇者には退職金を支払わない(減額する)」という規定に基づき退職金の請求権そのものが発生しない場合、「減給」には該当しないので、第91条違反とはなりません。

旧労働省労働基準法研究会報告でも、「退職手当は退職を条件とする停止条件付債権であり、あらかじめ定められた事由による不支給、減額は違法なものでない」と述べています。

しかし、会社が業務上の損失を従業員に押し付けるため、退職金を減額するのは、また別の話です。損害賠償を求めるのは可能ですが、そのためには損害額を確定し、支払いを求めるべきで、退職金から一方的に控除することはできません。

本事件で、会社は技術部門のミスにより、顧客に損害金を支払うハメに陥りました。4人の従業員が自己都合退職を申し出ましたが、会社は退職金から「技術部門のスタッフ数で頭割りした損害金相当」を減額しました。この処置の妥当性をめぐって、従業員らが訴訟を提起しました。

会社側の主張は、「控除の事実はない」というものです。退職金規定には、「職中の成果を考慮の上、精査査定し減額評価を行う場合がある」という項目が存在するので、それに基づき減額しただけ(請求権そのものが発生していない)というのです。

しかし、減額の根拠規定があれば、会社が恣意的に退職金を減額査定できるものではありません。冒頭に引用した労働基準法研究会報告でも、「退職手当を失わせる懲戒解雇の事由は、労働者に長年の勤続の功を抹殺してしまうほどの不信があったことを要する」と述べています。

本事件では、そもそも技術部門でミスがあったのは事実として、個々の退職従業員にどれだけの責任があったか明らかにする手続きを踏んでいません。会社は、「職中の成果や業績など、退職金減額の根拠となった事実」をうまく説明できませんでした。これでは、「長年の勤続の功を抹消してしまうほどの背信行為」があったと主張できないのは明らかです。

裁判所は、「顧客に支払った損害金を従業員らに負担させるため、退職金から控除して支払った場合と実質的に異ならない」と断じて、減額前の退職金を支払うよう命じました。実務上、退職金の減額には十分な根拠付けが必要な点は、肝に銘じておくべきでしょう。

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