判例 社員の自殺と退職金 (2009年7月号より抜粋)  
   

 

 
 

私病を除外する規定なし 会社都合で退職金計算するべき

従業員が在職中に自殺した場合、会社は自己都舎・会社都舎、どちらに基づいて退職金を払うべきでしょうか。メンタルヘルス面で不調を訴える従業員が増えるなか、興味深い問題といえます。本事件では、退職金規定に「死亡は会社都合」という規定が存在したため、それに基づき処理すべきと判示されました。

Pコンサルタント事件 大阪地方裁判所(平20・6・6判決)


「うつ」など精神面の不調が仕事に起因するものなら、自殺は労災として遺族補償給付等の対象となります。遺族は、さらに「安全配慮義務違反」で会社を訴えることも可能です。

本件は、業務関連性がないものとして処理されています。会社は、自己都合とみなし、減額した退職金を支払いました。なぜ「自己都合」と判断したかといえば、会社の退職金規定では、「私傷病により、その職に耐えず退職する場合」は自己都合と規定していたからです、確かに、自殺の前に、退職手続きを済ませていれば、その言い分が通ります。

しかし、一方で、「(在職中、)死亡した場合」は、会社都合として処理する旨の規定も存在しました。死亡原因については、何も書かれていなかったので、遺族はこちらを基に高い支給率を適用するよう求めて、訴訟を起こしました。

裁判所は、「会社は私傷病の場合に準じて、自己都合支給率を適用すべきである旨主張する。しかし、死亡による退職の場合について、その原因によって区別しないことが著しく不合理であるとはいえず、退職規定中の『死亡した場合』という文言を敢えて隈定解釈すべき必要性も見出しがたい」と述べ、会社都合の退職金を支払うよう命じました。

退職金は、就業規則の相対的必要記載事項ですから、制度が存在するなら必ず規則中に該当条項を設けなければいけません。しかし、そもそもまったく払わなくてもよいのですから、どのような場合にいくら支払うかは、労使が話し合って決めればよい問題です。

仮に「業務上の理由で死亡した場合、通勤中に死亡した場合」は会社都合、それ以外の私傷病・自殺による死亡は自己都合と規定すれば、それを根拠に処理することができます。しかし、必ずしもそれが唯一の正解とはいえず、「遺族の方の経済的困難を考えれば、少なくとも在職中の死亡については一律に扱う」という考え方もあり得ます。

在職中、不慮の病気・事故等で不幸にしてお亡くなりした方がいれば、「自己都合」と突っぱねるのも情理に乏しい対応策で、会社都合扱いとする会社も少なくありません。それでは、自殺だけを例外扱い(自己都合)にする旨、退職規定に明記するのがよいかといえば、これも難しい問題です。

いずれにせよ、判示のとおり、自己都合・会社都合の区分等は会社の裁量で決定できます。経営者としては方針を確立したうえで、誤解が生じないよう退職規定に明示する必要があります。

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