判例 転職先の会社へ便宜を図って懲戒解雇 (2010年7月号より抜粋)  
   

 

 
 

懲戒解雇は行き過ぎ 機密漏えいとは言えない

転職の直前には、現在の雇用先と次の雇用先と、両方の立場で動くことになります。本事件では、従業員が転職先の便宜を図るような行動を取り、転職前の会社の逆鱗に触れました。懲戒解雇で退職金も払わないと決定しましたが、従業員も簡単には引き下がりません。裁判の結果、「問題な振る舞いもあったが、懲戒解雇は行きすぎ」という判断が下されました。

Pコンサルタント事件 大阪地方裁判所(平21.7.16判決)


退職するまでは転職前の会社の社員で、就業規則の懲戒規定等の適用を受けます。しかし、心情的には、転職後の会社に肩入れしたくなるのが当然です。

本事件でも、従業員Aは穏当でない行動を取っていました。Aは、転職前の会社B社で、国土交通省の委託事業を担当していました。年度の終了問際に、Aが国土交通省の係長に会った際、係長は来年度も引き続き担当してもらいたいと発言しました。これに対し、Aは3月いっぱいで退職する予定だと告げ、最終的に翌年度の契約更新は見送られました。

B社は、「翌年度の契約は内定段階に至っていたのに、担当者が退職を申し出たために、社内管理体制の不備を問われ、破談になった」と主張しました。

さらに、Aは年休を取り、転職先C社の予定担当技術員として国土交通省のヒヤリングに出席していましたが、この案件にはB社も入札していました。B社は、就業規則中の「在職中に、承認なく他社での雇用を条件とする行為を行った場合」に該当すると判断しました。

どちらもB社首脳の神経を逆なでする所業なのは、いうまでもありません。しかし、転職前の二重雇用に近い関係を考慮すると、Aの行動にもムリからぬ点が見受けられます。「未年、自分は担当できない」と取引先担当者に告げること自体は、エチケットの範囲内です。C社の予定担当者としてヒヤリングに出席したのも、すでに採用が決まっている会社からの命令であれば、断りづらいのは当然です。

裁判所は、第1の点(退職情報の漏えい)については、B社のいうように契約が内定段階に至っていたとは認められず、AがB社を退職することが会社の機密事項であるとも解されないので、懲戒解雇の理由には当たらないと判示しました。

第2の点(C社の予定担当者としてヒヤリング出席)については、「相当程度に問題があり、就業規則の懲戒事由にも該当する」と述べました。しかし、ヒヤリングは技術者の経歴や実績等を判断するのが目的で、B社の業務上の秘密を漏らしたことにはならず、懲戒解雇は行き過ぎと結論付けました。

本事件では、Aの行動にもやや問題があったといえそうです。しかし、そもそも、自社から去っていく社員に、心からの忠誠を求めるのがムリな話です。自社の不利益を避けるためには、就業規則をきちんと整備し、誓約書の提出を求める等の防御策を講じておくべきでしょう。

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