判例 税制適格年金を退職一時金に変更 (2010年10月号より抜粋)  
   

 

 
 

適格年金制度を廃止 一時金の現在価値はほぼ等しい

税制適格年金制度の廃止時期が、近づいています。各企業では確定拠出年金や中退共への移行など、さまざまな対応がとられていますが、本事件の被告会社は一時金制度への切り替えを選択しました。1審は労働者側勝訴、2審は会社側勝訴という結果で、改正の必要性と代償措置の相当性をめぐり、判断がまっ二つに分かれました。

B製薬ほか事件 東京高等裁判所(平21.10.28判決) 


本事件の難しいところは、在職者を対象とする制度変更でない点です。既に退職し、一生、年金を受け取れると思っていたところ、青天の霹靂で、一時金を支払ってお仕舞いにするといわれれば、誰でも簡単には納得できません。

本事件では、会社の年金規約中に「一般経済情勢の変化、会社経理内容の変化または社会保障制度の改正等を慎重に考慮のうえ、必要と認めるときは、制度の改廃可能」という条項が盛り込まれていました。会社はこれを根拠に、受給者51人に説明を尽くし、49人は最終的に一時金への切り替えに同意しました。しかし、1人の従業員が受け入れられないとして、裁判に訴えました。

判決文では、「既に退職している者については、退職金に係る制度が不利益に変更されても、その代わり雇用が保障されるとか、他の労働条件が改善されたりするというメリットが生じることも考えられないもので、変更は通常受給者側に一方的に不利益なものといえる。したがって、必要性の要件の判断は厳密に判断される必要がある」と述べています。

第1審では、「会社の経営状況が悪いと認められず、その余の要素を十分考慮するとしても、必要性、相当性とも認められる合理的なものとするのは困難」という判断を下しました。会社は、引き続き年金を支給すべき義務を負うという結論です。

一方、第2審では、「本改正は、一般経済情勢の変化(バブル経済崩壊による長期の低金利状態の継続、経済情勢の悪化、国際競争の激化)、それに伴う会社経理内容の変化、国の社会保障制度の改正(企業年金制度の改正)に基づくもので、相応の必要性、合理性はある」と判定を覆しました。

会社側逆転勝訴のもう一つの理由は、代償措置の程度です。一時金へ切り替えるに際し、「受給者の年金総額を今後の生存の確率に基づき算定したうえ、それを年1.5%の運用利回りで現在価額に割り戻しており、本来受け取るはずの年金額と理論上、計算上は等価に等しい」と述べています。「一時金支給になることにより一時に多額の税金を支払わなければならない不利益を考慮しても、代償措置として相当なもの」と断じました。

本事件では、会社は年金に見劣りしない一時金支給という形で、将来的な財政負担を回避しました。積立金等の裏付けがなければ、選択できない措置ともいえます。しかし、負担の重い年金制度から一時金制度への移行が認容されたという点で、記憶しておくべき判決といえます。

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