一部就労した場合の休業補償給付 (2010年12月号より抜粋)  
     
 

業務上のケガで1日2時間だけ病院に行く場合に労災の補償はどうなる?

 

Q

業務上の災害でケガをした社員が、週に2日ほど、出社前に病院に通院しています。2時間ほど遅刻しますが、本人から労災保険の休業補償給付の対象にならないかと質問を受けました。仮に対象外の場合、会社で賃金を保証すべきなのでしょうか。

 

 
 
A

支給額がゼロの場合もありえる

休業補償給付は、休業1日につき給付基礎日額の100分の60相当額が支給されます(労災保険法第14条)。一部休業の場合は、「給付基礎日額から労働に対して支払われる賃金を控除して得た額の100分の60」を支払う規定となっています。

例えば、1ヶ月の賃金22万円の人(Aさん)がケガをしたとします。労災保険の給付基礎日額は、基本的には「労働基準法の平均賃金に裾当する額」とイコールです(労災保険法第8条)。ただし、最低補償など労基法にはないルールも定められているので、注意が必要です。

Aさんの給付基礎日額は、3ヵ月の総暦日数が92日の場合、

22万円×3ヵ月÷92日=7,174円になります。

給付基礎日額は1円未満の端数を切り上げて処理します(労災保険法第8条の5)。Aさんの会社では、たとえば、欠勤があると月給の22分の1を控除する規定だったとしましょう。1日分の控除額は、

22万円÷22=1万円

1時間あたりの控除額(1日の所定労働時間8時間として)は、

1万円÷8=1,250円です。

2時間遅刻で2,500円をカットすると、差し引き7,500円の賃金が支払われます。この場合、「給付基礎日額(7,174円)から労働に対して支払われる賃金(7,500円)を控除」すると、差額が残りません。つまり、労災保険の休業補償給付に相当する額が発生しないので、給付請求はできないという結論になります。

休業補償給付のほか、社会復帰促進等事業から休業特別支給金(給付基礎日額の100分の20相当)が支給されます。しかし、同支給金も、一部休業の場合には「給付基礎日額から労働に対して支払われる賃金を控除して得た額の100分の20」を支払う規定となっています(特別支給金支給規則第3条)。休業補償給付を請求できないケースでは、休業特別支給金も発生しません。

労災保険から給付がないとして、会社に補償義務はないのでしょうか。一部休業が生じた場合、労基法では「休業補償として、平均賃金と当該労働に対して支払われる賃金との差額の100分の60を支払う」規定となっています(労働基準法施行規則第38条)。給付基礎日額が平均賃金に置き換わっただけで、基本的な考え方は労災保険の休業補償給付と同様です。ですから、休業補償給付を請求できないケースでは、労基法上の休業補償を支払う義務も発生しません。

しかし、従業員感情を配慮すれば、できる限り賃金カットを避けるのが望ましいといえます。

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