判例 遅出・早帰りの管理職の解雇は有効 (2011年3月号より抜粋)  
   

 

 
 

取材を口実に出社せず 必要な業務範囲から逸脱

管理監督者は、「時間管理の適用外」だといいます。だとすれば、毎日、遅く出てさて、早帰りしても何ら問責でさないのでしょうか。本事件は、研究業務の特別管理職が資料集め等と称して勤務日数の3分の1について出社しなかったケースです。裁判所は、「悔悛(かいしゅん)の見込みなし」として懲戒解雇した会社側処分を有効と認めました。

T電力事件 東京地方裁判所(平22.11.17判決)


本事件の主人公は電力会社の管理職で、技術開発研究所に出向し、経済動向に関する研究業務に従事していました。研究所にいるより、霞ヶ関等へ取材に行く時間が長いのですが、「取材先」ははっきりしないのが実情でした。

よくいえば独立独歩。ヒラメキ型人間だったのかもしれませんが、組織になじまず、職業モラルに欠ける面もあったようです。いわゆる「頭はいいけれど、扱いにくい人間」といったタイプでしょうか。出社状況は、「所定勤務日数152日のうち、7時間以上出社は2日のみ、全休48日それ以外は半日出勤」という惨憺たるものでした。

普通の企業なら、社長の一喝でたちどころにクビになるところです。しかし、管理監督者(労基法第41条)は、「経営者と一体的な立場で働くものであり、労働時間等の規制になじまない」(昭22.9.13発基第17号)ので、時間外労働等があっても割増賃金の支払いを要しません。一方、コインの裏側として、不就労があっても、時間に応じた賃金カットはできない建前になっています。

いわゆる「名ばかり管理職」問題が顕在化してから、管理職の遅出・早退の賃金カットを(遅まきながら)やめた企業も多いようです。しかし、それなら、管理職である限り、好き放題休んでも文句をいえないのでしょうか。

本判例は、この本源的な問いに答えるものですこ判決文では、まず「管理職は、研究所の執務時間(フレックスタイム制)に直接拘束されるものではないが、労働時間規制の枠を超えて働く重要な職務と責任を負うので、格別な必裏がない限り、研究所の執務スペースで業務遂行を行う義務を負っていた」という基本原則を提示した後、「会社が社外勤務等を命じたことはなく、本人も外出が業務上の必要に基づく行動であるとの情報・資料の提示はしだかった」等の事実を立証しました。

そのうえで、会社側の「今後の悔俊あ見込みがない」等の判断に基づく懲戒解雇処分を有効と認めています。

本事件で、会社側は当人に対し辞表の提出か解雇か、いずれかの選択を迫りました。辞表提出なら、退職金の減額幅が大きく減らされます。結果的に本人は(嫌々ながら)辞表提出を選択しましたが、判決文は「会社は、両処分の差異を具体的に説明したに過ぎず(会社の圧力、脅迫等はなく)、本人の辞表提出行為について何らの瑕疵も認められない」と述べています。退職へ至る実務手続き上、参考とすべき点が多々あるでしょう。

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