天災による休業と休業手当 (2011年6月号より抜粋)  
     
 

会社休業でもやむを得ないときは休業手当不要というがその基準は?

 

Q

東日本大震災がきっかけで、会社がやむを得ない事情で労働者を休業させるとき、「休業手当」を支払わずに済むケースもあることを知りました。しかし、手当の要否の境目は結構、あいまいです。どのような点に着目して判断すればよいのでしょうか。

 

 
 
A

事業主が回避不能の場合は休業手当不要

休業手当は、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」の場合に、支払い義務が生じます(労働基準法第26条)。

今回の震災では、多くの事業場が、直接的・間接的な経済損失を被りました。損害の度合いも、業種・立地場所等によりさまざまです。被災地から遠く離れた事業場にも、取引先のそのまた取引先が被害を受けたおかげで受注を見込んでいた仕事がキャンセルになるといった形で影響が及んでいます。

日常常識の世界では、「責めに帰す事由」とは故意や過失を指します。今回被害は、「天から降ってきた思いもかけない災難」ですから、圧倒的多数の経営者は自分に責任があるとは認めないはずです。

しかし、労基法でいう「責めに帰すべき事由」の範囲は、故意・過失より広いと解されています。ただし、いかなる意味でも使用者の帰責事由に該当しない「不可抗力」による事故は除かれます。

今回災害に対し、厚生労働省が公表した「Q&A」をもとに、手当の要否を決める「運命の境目」をみてみましょう。まず、事業場の施設・設備が倒壊した場合、程度にもよりますが、基本的には「使用者の責めに帰すべき事由」に該当せず、休業手当は不要です(パターン1)。

一方、交通障害、取引先の被害等を理由とする間接被害については、原則として「使用者の責め」に含まれると解されています。従来から、「親工場の経営難から下請工場が資材、資金の獲得ができず休業した場合、休業手当が必要」(昭23・6・11基収第1998号)という解釈例規が存在します(パターン2)。

しかし、厚生労働省Q&Aでは、「取引先の依存の程度、輸送経路の状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間、使用者としての休業回避努力等を総合的に勘案し」、手当の支払いが免責されるケースもあり得るとしています(パターン3)。

実務的にいえば、最も悩ましいのはパターン2とパターン3のいずれに該当するか、スレスレのケースでしょう。

判断基準としては、次の2条件のいずれも満たせば、パターン3(手当不要)とみなされます。

  1. その原因が事業の外部より発生した事故である
  2. 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故である

従業員の生活保障を考えれば、微妙なケースでは手当を払った方がよいのはいうまでもありません。

雇用調整助成金については、「手当の支払義務の有無に関係なく、手当を支払えば助成対象となり得る」としているので、助成金の活用も検討すべきでしょう。

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