判例 内々定取消で慰謝料支払いを命ず (2011年6月号より抜粋)  
   

 

 
 

2日前に約束破棄を通知 期待利益の侵害は甚大

新就職氷河期といわれる昨今、新卒者の仕事確保は困難を極めます。本事件で、原告の卒業予定者は、ある不動産会社から「内々定」を取り付けましたが、内定発令の数日前に「内々定取消」の通知を受けました。裁判所は、労働契約の成立は否定しましたが、期待利益を裏切ったとして会社に慰謝料の支払を命じました。

K社事件 福岡地方裁判所(平22・6・2判決)


新卒者の就職が困難なのは、企業側も経済の先行きに自信を持てない状況にあるからです。「内定取消」事案が多発するのに対応するため、厚生労働省では平成21年に職業安定法施行規則を改正し、内定取消の通知(ハローワーク)、悪質企業名の公表等の制度化を図っています。

しかし、企業の採用プロセスをみると、「内定」発令の前に「内々定」という段階を踏むケースが少なくありません。「内定」に関しては、始期付解約件留保付労働契約が成立したと判断し、新卒予定者の救済を図る裁判例が存在します。

それでは、「内々定」を取り消した場合、企業はどのような責任を負うのでしょうか。本裁判は、この問題を取り扱った興味深い例です。

本事件で、新卒予定者は不動産を取り扱う会社の募集に応募し、卒業年度の5月30日に「採用内々定のご連絡」を受け、翌日、入社承諾書を返送しています。入社内定の発令日は、「『新規学卒者採用・選考に関する企業の倫理憲章』を前提に同年10月1日」を予定していました。

しかし、同社は経営環境の悪化を受け、予定日直前の9月29日付で「採用内々定の取消のご連絡」という文書を発し、内々定の約束を破棄しました。あまりに不当な仕打ちに対し、怒り心頭に発した新卒予定者側では裁判を起こしました。裁判所は、まず「内々定」の性格について「正式な内定までの間、企業が新卒者を囲い込んで、他の企業に流れるのを防ごうとする事実上の活動の域を出るものでない」という解釈を示し、内定時のような「始期付解約件留保付労働契約」の成立は否定しました。

しかし、「採用内定通知書交付の数日前に至った段階では、労働契約が確実に締結されるであろうとの期待は、法的保護に十分に値する程度に高まっていた」点を認め、会社側に対し「慰謝料100万円と弁護士費用の一部」の支払を命じています。

内定通知等を受けても、さらによい就職先を探し、就職活動を継続する新卒予定者も少なくありません。採用決定まで、相手に「出し抜かれる」のを警戒し、ともに疑心暗鬼の状況が続きます。会社が種々、防衛策を講じる心理は理解できます。

しかし、だからといって、「内々定の立場にある新卒予定者への現実的な影響を十分考慮することなく、内定直前になって急いで内々定取消を行う」(判決文)ような姑息な対応が許されるものではありません。会社側敗訴も致し方ないところでしょう。

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