判例 業務ミス理由の賠償請求を棄却 (2013年1月号より抜粋)  
   

 

 
 

会社が負担すべきリスク 受注量の減少も想定内

担当者の「業務上のミス」で、発注会社が業務量の削減を決定した場合、会社はとこまで担当者の責任を追及できるのでしょうか。本事件で、会社は受注額減少分やトラブル対応に要した人件費を、担当者に損害賠償請求しました。しかし、裁判所は「労働者のミスは元々企業運営に内在するリスク」であるとして、賠償責任を否定しました。

E社事件 京都地方裁判所(平23・10・31判決)


「不良品1個当たり、給料から一定額を差し引く」など賠償を予定する契約の締結は禁じられています(労働基準法第16条)。一方、「現実に生じた損害について賠償を請求することは、本条の禁止するところではない」と解されています(昭22・9・13発基第17号)。

本事件は、ソフトウエア会社(A社)を舞台とします。A社勤務のBさん(被告)は、A社のお得意先C社から受注する業務を処理するチーム(D)を統括し、かつC社と折衝する窓口担当を勤めていました。

しかし、Dチームが納品したプログラムについて、連続して不具合が発生し、C社との関係が悪化します。原因を調査すると、Bさん本人やDチームのミスが大部分を占めました。しかも、24時間以内に不具合対応が完了しない場合、納期を通知することになっていたのに、Bさんは通知を失念するミスも犯していました。

ちなみに、BさんはC社との折衝に神経をすり減らした結果、うつ病を発症し、労災認定を受け、退職しています。ソフトウエア業界では、システムエンジニアの過重労働が問題になっていますが、ミスの続発の裏には、そうした業界特有の事情もあったようです。

Bさん等の対応に不満を抱いたC社は受注量の削減を通告し、A社では上司が対応に追われました。そこで、A社はBさんに対し、受注減分や上司の人件費分などを含め、2,000万円余の損害賠償を求めました。

これに対し、裁判所は、過去の最高裁判例(茨城石炭商事事件、昭51・7・8)を引用しつつ判断の大枠を示しました。「労働者のミスはもともと企業経営の運営自体に付随、内在化する(報償責任)もので、業務命令内容は使用者が決定するものであり、その業務命令の履行に際し発生するであろうミスは業務命令に内在するものとして使用者がリスクを負うべきものである(危険責任)」。

そのうえで、本事件については、「売上減少、ノルマ未達などはある程度予想できるところであり、今回のような損害は、結局は取引関係にある企業同士で通常にあり得るトラブルなのであって、それを労働者個人に負担させることは相当でない」と判示しました。

金融機関グループ等でも、プログラムの不具合で膨大な顧客に迷惑をかける事件が頻発しています。これも、チェックミス等が原因でしょうが、プログラマーが損害を負担できるはずもありません。故意・重過失でない限り、「業務ミス」での損害賠償は難しいと心得るべきでしょう。

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