判例 2事案に分離して懲戒も可能 (2013年9月号より抜粋)  
   

 

 
 

一時不再理に反せず ミスと隠ぺいは別問題

「一事不再理」ということばがあります。しかし、何をもって「一事」と数えるのかは、なかなか難しい問題です。本事件は学校を舞台とするものですが、「採点ミス」と「その事実の隠ペい」は、別々の問題として処分可能という判断が示されています。ただし、二次的に科した処分については、量刑が重すぎ、懲戒権濫用と判断されました。

国立大学法人乙大学事件 東京地方裁判所(平23・8・9判決)


裁判等で判決が確定した場合、原則的に同一事件について公訴を提起することはできません。「二重起訴禁止」等と表現することもあります。

実務的にありがちなケースとしては、使い込み等をした従業員に対し、懲戒としてまず出勤停止処分を科し、懲戒委員会等の審議を経てから正式に懲戒解雇するパターンが挙げられます。これは、二重処分に当たる可能性大です。後から重い処分を科す予定があるのなら、最初の出勤停止は懲戒ではなく、「調査上の必要のため、自宅で待機していなさい」という業務命令の形を採るべきです。

しかし、一連の非違行為を分解し、別々に処分可能なケースもあり得ます。本事件の被告は学校教諭で、入学試験の採点漏れが発覚し、学校法人から訓告処分を受けました。訓告処分から8ヵ月後(非違行為から1年3カ月後、聞き取り調査から1年後)に、法人はさらに「採点ミスについて管理職等への報告を行わなかったのみならず、他教諭に対し、口止めをして隠ぺいを行った」ことを理由として、停職3ヵ月の懲戒処分を科しました。

これに対して、被告教諭は「二重処分ないし信義則違反に当たり無効である」旨を主張して、裁判を起こしました。

裁判所は、「本件不報告にせよ、隠ぺい行為にせよ、いずれもミスを認識したうえで、これを敢えて管理職等に報告しないという故意行為であって、単なる採点ミスとは質的にも大きく異なる重大な規律違反行為である」と認定したうえで、「訓告処分は採点ミスという過失行為を対象としており」、停職処分は二重処分禁止には違反しないと判断しました。

ただし、「訓告処分時点で、再処分時とほぼ遜色ない証拠を有していたこと、同時点で更なる処分の可能性を告知していないこと、本人に対する人事上の不利益が課されており、本人が(追加)処分はないと信じることに相当の理由があったと認められる」点等を考慮し、2次処分については、社会相当性を欠くものとして懲戒権の濫用に当たると判示しています。

二重処分には当たらないものの、信義則違反という被告主張は認容された形です。

一連の行為を分解できる場合であっても、基本的にはそれを総合し、1回で量刑を定めるのがよいでしょう。調査等に手間取り、最終判断に慎重を期す必要があるときは、最初の処分が何を対象とし、他の非違行為については「追って沙汰を下す」旨、通知しておく必要があるといえます。

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