判例 自ら長時間労働で過労死 (2014年8月号より抜粋)  
   

 

 
 

過労死で安全配慮義務を争う 一部過失相殺を認めた

責任ある立場の人間が、自らの判断で長時間労働に従事した場合、会社はどこまで責任を負うのでしょうか。本事件は、百貨店内に出店していた店長が突然死したものです。裁判所は、過重労働の存在を認定しましたが、「管理者」として業務量軽減に向けた取組を行っていない点等を考慮し、3割の過失相殺を相当と認めました。

Y社事件 新潟地方裁判所(平24・12・6判決)


店長の過労死は、大型チェーン店などで問題化しています。しかし、サービス産業だけが特殊ケースではありません。たとえば、専門型裁量労働制で働く労働者の中にも、遅くまで社内・研究所に居残る人が少なからずいます。

成果を上げ、能力・実績を認められたい(それ自体は健全ですが)という気持ちが、往々にして「自分で自分を追い込む」結果につながるようです。

しかし、過労死や精神不調という結果が惹起された場合、会社は「成果を求めたのは事実だが、具体的に長期間労働を指示したわけではない」と反論し、責任を回避できるのでしょうか。

本事件で、心疾患により突然死されたAさんは、百貨店内の出店の責任者でした。しかし、店長といっても、従業員3人とパートスタッフがいるだけで、開店時間の大部分は、店に張り付くほかない状況が続いていました。

裁判所の認定では、「死亡前4ヵ月は就労日のほとんどが拘束時間10時間を超え・時間外労働時間は月平均80時間を超え」ています。しかも、Aさんはまだ「36歳と比較的若年であり、喫煙、飲酒はせず、結婚以降、心疾患等の治療を受けたことはなかった」という状況でした。

判決文では、「使用者は、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なわないように注意する義務を負う。会社は、Aさんのタイムカードのチェックを行い、長時間労働の実態を認識していたものであるから、心身の健康を損なう疾患発症を予見できた」と述べ、会社の管理責任を認めました。

しかし、Aさん側の自己管理の甘さも同時に指摘しています。「Aさんは店舗の店長であり、その過重な労働を是正するために、会社に申し出て業務量ないし労働時間の軽減を図ることが可能な立場であったにもかかわらず、そのような申出をしたことが認められない」「1ヵ月前から深夜のワールドカップ中継を見ており、休暇取得中に疲労回復に努めることが可能であったにもかかわらず、中継視聴を継続していた」。Aさんには、若さと健康への過信があったといわざるを得ないでしょう。

結果的には、「自己の労働時間に関してある程度の裁量権を持つ」労働者に関して、一部の過失相殺(3割)が認められました。しかし、だからといって、経営者責任が全面的に免責されたものではなく、管理職・上級スタッフ職についても、長時間労働の予防に「目を光らせる」必要があるのは、いうまでもありません。

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