判例 着替え盗撮の会社責任を否定 (2014年9月号より抜粋)  
   

 

 
 

業務執行と関係なし 犯罪行為の予測は困難

従業員が「モラルを逸脱した行為」を行った場合、会社は被害者に賠償する義務を負うのでしょうか。セクハラ関連では、民法に基づき使用者責任が認められたケースが多々あります。本件は「女性従業員の着替えを盗撮」した事件ですが、さすがに裁判所は「予測・防止」は困難であったと認定、慰謝料等の支払請求を退けました。

X社事件 東京地方裁判所(平25・9・25判決)


かなり以前の話になりますが、名のある経済評論家が、盗撮事件で「あたら有為な将来を棒に振った」事件がありました。ご本人が処分を受ける分には、自業自得です。

しかし、犯罪の現場が社内等である場合、会社に責任が及ぶことも想定されます。実際問題、セクハラは私的行為ですが、「会社も慰謝料支払を命じられた」などという話をよく耳にします。

本事件は、支店長Aが従業員Bの着替え中の姿を盗撮したケースです。Bさんは、会社を相手取って慰謝料支払を求める裁判を起こしました。

しかし、盗撮は明らかな軽犯罪行為です。従業員が事件を起こせば、「何でも会社の責任」というのも理に合わない話です。

民法715条では、「使用者は、被用者が『その事業の執行について』第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と規定しています。「事業の執行につき」とは、「使用者の事業ないし被用者の職務の範囲内に属する行為、ないしはその外形を備えている行為をいう」と解されています。

裁判所は、「盗撮行為は、Aの欲望を満たす行為であって、事業上の必要性に基づくものではなく、その態様も女性に気づかれないように隠し撮りをするというものであって、Aの権限・地位を利用したものとはいえない」ため、「事業の執行につき」行われたと認められないと判示しました。

また、「盗撮という軽犯罪法に該当する行為をしないことは従業員として当然の責務であるから、会社があらためて注意指導する必要もなかった」と述べています。しかも、本事件を起こしたのは、「支社長」という責任ある立場にいた人間です。

当然のことながら、「会社が盗撮行為を予測して、その防止のため女子更衣室を設けたり、ビデオカメラの保管を厳重に行ったりする義務があるとまではいえない」という結論になります。

ちなみに、Bさんが訴えを起こすに当たっては、「会社が、当初、事実をもみ消そうとするなど不誠実な態度を取った」という印象を抱いたことも大いに影響しています。結論的には、「もみ消し疑惑」も含め、会社の責任はすべて否定されました。

しかし、不始末発生時には、会社として「毅然とした態度(本件では、事情聴取・盗撮行為の裏付けを得たうえで、8日後に懲戒解雇)」を採らないと、不必要に問題を複雑化させるおそれがある点には、くれぐれも注意が必要です。

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