判例 自己判断の学習も労働時間 (2014年10月号より抜粋)  
   

 

 
 

うつ病自殺で会社責任 安全配慮義務に違反する

新入が仕事の完成に手間取るのは当たり前の話。しかし、業務の習得に要する時間も含め、すべてが「時間外労働」に力ウントされるのでしょうか。本事件は過重労働による「うつ自殺」に関するケースですが、裁判所は「少なくとも過重負荷の評価において労働時間とみるのが相当」という判断を示しました。

医療法人K会事件 札幌高等裁判所(平25・11・21判決)


政府の改訂成長戦略では、「年収1000万円以上で、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者」を対象とする「新たな労働時間制度の導入」を提言しています。

高度専門職等は、「休日、自宅にいても、常に仕事のことが頭から離れない」といった状態に置かれています。その心理的プレッシャーの軽減措置は、重要な政策的課題といえます。

閑話休題。口を酸っぱくして指導を試みても、馬耳東風の従業員もいます。しかし、多くの専門職等は何もいわなくても「成果を出すための努力」を厭いません。

本事件では、医療法人Aに採用された臨床検査技師Bが約半年後に自宅で自殺しました。両親は医療法人Aを相手取り、安全配慮義務違反を追及する裁判を提起しました。1審(札幌地方裁判所、平24・8・29)では敗訴しましたが、2審では逆転勝訴しています。

本欄では、2審の判決内容を検討します。検査技師Bは、終業時刻後、長時間(1カ月約100時間)、職場に「残留」していましたが、「終業準備時間を除く大部分は自習時間」でした。自習時間中は、「新しく担当することになった超音波検査の知識、技術を習得するという業務と密接に関連する自習」を行っていました。その過程でうつ病を発症し、最悪の結末を迎えてしまいました。

1審の判決は、「居残り時間の大部分は自習時間」だったという要素を重視しているようです。

検査技師Bの上司は、「業務を遅くとも午後8時〜9時に終了させるように調整し、Bに対し超音波検査の担当件数を減らすことを打診」しましたが、それ以上の対応は取っていませんでした。

「若い人のいちずさ(エネルギーの強さ)」に気押され、ブレーキをかける配慮が欠けていたともいえるでしょう。

2審では、「本件自習時間は少なくとも過重負荷の評価において労働時間とみるのが相当」と述べたうえで、「被告(医療法人A)は、Bが時間外労働、時間外と同視される本件自習をしていたことは、容易に認識できた」にもかかわらず、「自習時間を削減したり、心理的負荷を軽減するための『具体的、実効的な』措置を怠っていた」と判示しました。

本判決文をみるかぎり、本人の自主的居残りであっても、残留時間が顕著に長い場合には、使用者として「現実的なアクション(速やかに帰宅させる等の措置)」を採らない限り、安全配慮義務を追及されるおそれが高いといえます。

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