判例 能力評価分も昇給カット不可 (2015年7月号より抜粋)  
   

 

 
 

育休取得で不利益的取扱い 病気欠勤と比べても不均衡

育休の取得者は、1年間フル勤務者と比較すれば、仕事の「絶対量」が異なります。この場合、昇給査定で低評価をつけても良いのかという難問が発生します。本事件で、医療法人は本人給のみ昇給さ廿、職能給は据置きとしました。1審は医療法人の主張に軍配を上げましたが、本判決(2審)では従業員の逆転勝訴となっています。

I医療法人事件 大阪高等裁判所(平26・7・18判決)


育児介護休業法では、一定範囲の従業員に対して育児休業取得の権利を付与し(第5条)、不利益取扱いを禁じています(第10条)。

しかし、育休期間中、従業員は会社業績に対して寄与するところがありません。「休業を認めるのは仕方ないとしても、労務の提供がなかった分、低査定するのは当然ではないか」、経営者の立場に立てば、そういう発想も出てきます。

この問題について、まず日本シェーリング事件(最判平元・12・14)では、「法律で定める休業の権利を行使した場合、それを欠勤扱いとすることは、法律が権利を保証した趣旨を実質的に失わせる」と述べ、定昇の対象から外した措置を違法としました。

次に、東朋学園事件(最判平15・12・4)では、賞与査定の欠勤扱い(出勤率90%未満は不支給)も違法と判示しました。

本事件は、その第3ラウンドといってもよいものです。被告となった医療法人は、日本シェーリング事件を考慮し、一律昇給(査定なし)の本給については規定通りの定昇を認めました。しかし、評価により変動する職能給に関しては、不昇給としていました。具体的には、「前年度に3ヵ月以上の育児休業をした者は職能給を昇給させない」という運用ルールを定めていました。

1審では、職能給不昇給により被る不利益はわずか(収入の1.2%程度)で、「休業の権利行使を抑止する効果は大きくない」と述べ、従業員側の主張を退けました。どちらかというど「経営者側の常識論」に歩み寄った形です。

しかし、高裁(本判決)は、不利益取扱いの禁止(育介休業法第10条)という規定により重きを置いた判断を下しています。その理由として、「同じ不就労でありながら、遅刻、早退、年休、生理休暇、慶弔休暇、労災による休業・通院などについては、3ヵ月以上の休業があっても職能給昇給の欠格要件としていない」点を指摘しています。

均等法の指針中の規定ですが、「出産による不就労等について、同じ期間休業した疾病等と比べ、不利に取り扱う」ことを禁じています。そうした規定とのバランスを考慮した判決といえます。

しかし、実務的には、まだ不明確な点も残されています。仮に売上に基づく業績給制度があったとして、稼働が半年なら、売上の絶対額も半減します。この場合、業績給評価で「欠勤がなかったら、どの程度の売上があったか」を推計して評価する義務があるのでしょうか。第4ラウンドの裁判が提起され、スッキリした回答が示されることを望みます。

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