判例 懲戒解雇事由の追加認めず (2015年9月号より抜粋)  
   

 

 
 

提出時期が遅すぎる 訴訟の進行を大きく阻害

解雇の合理性を争う際、使用者は「これはと思う」理由を列挙します。裁判所がその主張を退け、解雇無効と判断した場合、追加で別の理由を提示できるのでしょうか。本事件で、一審で敗訴した会社側は理由を5つに増やしたうえで、2審に臨みました。しかし、高裁は「時期に遅れた攻撃防御方法」として、却下しています。

A福祉協会事件 東京高等裁判所(平26・7・10判決)


使用者は、「決定打となる事件・行為」があって、はじめて解雇という決断を下します。しかし、対象となる人物は、それ以前から「不良社員」というレッテルを貼られているケースが少なくありません。

日頃から、「積もりに積もっていた不満」があるからこそ、何かをきっかけにして「解雇する・しない」の大騒動に発展するわけです。

ですから、解雇をめぐる裁判で使用者側が不利な状況に陥ったとき、「実はこんな理由、あんな理由もあった」と後から主張して、収拾がつかなくなるという事態も見受けられます。「解雇理由の後付」に対して、裁判所はどのような態度をみせるのでしょうか。

本事件で「決定打」となったのは、役所(年金局)の調査に対する対応です。法人は「何事もなかった」という形で収めようとしたのですが、職員(Aさん)がその内容は事実に反する旨の回答を行いました。Aさんは、元々、上層部の意向に従わず、「我が道を行く」的な傾向がみられたようです。会社が示した解雇事由は5種類です。

@異動命令拒否
A業務指示に対する不服従
B年金局への資料提供(会社主張を否定)
C会社の虚偽を年金局へ連絡
D今後の相互協力は不可能

一審(東京地裁)で争った際、会社はBCを主理由として挙げましたが、敗訴しました。そこで、高裁に控訴する際、@ADの理由も追加主張するという戦術を取りました。

高裁の判断は、BCの事実については、一審の判断をおおむね支持しました。Aさんの対応は「年金局の調査に協力したもので、適切さに欠ける面はあったものの、事実と基本的に異なる点はなく」、その言動に問題とすべき点はないと判示しました。

追加主張の@ADに関しては、民事訴訟法157条1項に基づき処理しています。同項では、「故意または重大な過失により後れて提出した攻撃または防御の方法については、訴訟の完結を遅延させることとなるときは、却下できる」と定めています。

高裁は、「時期に遅れたことについて故意・過失があるのは明らか」と述べ、新たな主張について当否の判断は行いませんでした。いわば、「門前払い」を食わせた形です。

解雇の決定をする際、あるいは裁判でその合理性を争う際には、「最初から必要十分な理由を列挙しておく」という姿勢が求められます。本事件は、「泥縄」の対応では勝てないという見本です。

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