賃金の非常時払 (2016年6月号より抜粋)  
     
 

アルバイト従業員が母親の病気で帰省するが「給与の前借」要請にどう対応?

 

Q

アルバイトの従業員が、「実家の母が倒れたので、故郷に帰りたい」といいます。勤務シフトに穴が空き、人のやり繰りが大変です。それだけでなく、「給与の前借り」を求められました。事情はよく分かりますが、応じる必要があるのでしょうか。

 

 
 
A

既往労働分の賃金の支払いで対応

従業員を対象として、生活資金(代表は住宅資金)を福利厚生的に貸し付ける例は少なくありません。しかし、臨時的なアルバイトが故郷に帰るという場合、「職場に戻るといっても、家族に引き止められる」といった可能性は想定しておく必要があります。貸付金回収等のトラブルは避けたいところです。

労働基準法では、「非常時払い」という仕組みを設けています(第25条)。家庭の事情等で、急に金銭が必要になった場合、事業主は「既往の労働に対する賃金」を支払う義務を負います。

従業員は、労務を提供しても、就業規則等で定める賃金支払日まで賃金の請求ができません。しかし、次の事由に該当するときは、繰上げ払いを求めることができます。

  1. 労働者の出産、疾病、災害

  2. 労働者の収入によって生計を維持する者の出産、疾病、災害

  3. 労働者または労働者の収入によって生計を維持する者の結婚・死亡

  4. 労働者または労働者の収入によって生計を維持する者がやむを得ない事由により1週間以上帰郷

「労働者の疾病」には、業務上の疾病はもちろん、私傷病も含まれます。「収入によって生計を維持する者」に関しては、扶養親族でなく、同居人等でも差し支えないと解されています。

ご質問のケースでは、「実家の母の疾病」が理由となっています。従業員はアルバイトですから、母親が「収入を維持する者」に該当するとは思えません。しかし、「やむを得ない」事由による帰郷ということで、「既往労働分の賃金」を支払うのが妥当です。

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