労災保険の給付制限 (2017年4月号より抜粋)  
     
 

飲酒運転で事故を起こせば通勤災害として給付を受けられない?

 

Q

業務終了後、部署内で新人の歓迎会が行われました。後日、聞いたところでは、社員の1人が飲酒後にオートバイを運転して帰宅したとのことです。幸い事故はありませんでしたが、厳しく注意を促しました。仮に事故を起こした場合、酒酔い運転ということで、通勤災害の給付金はもらえないのでしょうか。

 

 
 

軽度ならおとがめ無しの場合もあるが、給付制限を受ける

ご質問の従業員は、通常用いている交通手段(オートバイ)で、いつもの経路を帰宅しました。しかし、通勤災害と認定されるためには、2つの障害があります。

通勤とは、「@就業に関し」、「A住居と就業の場所間等を」「B合理的な経路および方法により行う」ことをいいます(労災保険法第7条2項)。

第1の問題点は、業務終了後、直ちに退社していない点です。社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失わせるほど長時間が経過すると、「@就業に関するもの」といえないため、通勤の定義から外れてしまいます(平18・3・31基労補発第0331003号)。

「長時間」とはどの程度かというと、「労働組合の用務を2時間5分行った後に帰宅したケース」が、通勤災害と認められた(昭49・11・15基収第1881号)一方で、「サークル活動2時間20分+着替え30分後に退社したケース」が、不認定となっています(昭49・9・26基収第2023号)。

新人の歓迎会ということですが、「会社主催であるが参加するか否かが労働者の任意とされているような行事」は、業務と認定されない可能性が大です。

第2に、酒酔い運転という問題があります。前掲通達では、「自動車、自転車等を泥酔して運転するような場合、「B合理的な方法』と認められない」と述べています。つまり、帰宅行為は通勤に該当せず、補償の対象になりません。

一方、「軽い飲酒運転等については、必ずしも、合理性を欠くものとして取り扱う必要がない」という考え方も示されています。ただし、仮に通勤と認められても、「給付制限」が課されるおそれがあります。

労災保険法第12条の2では、「故意の犯罪行為もしくは重大な過失により、事故を生じさせたときは、保険給付の全部または一部を行わないことができる」と規定しています。

具体的には、「事故発生の直接の原因となった行為が、法令(労基法、道路交通法など)上の危害防止に関する規定で罰則の付されているものに違反」した場合、同条が適用されます(昭40・7・31基発第906号)。

制限の対象となるのは休業(補償)給付・障害(補償)給付で、保険給付のつど所定給付額の30%相当がカットされます。

飲酒運転を行うと労災保険の給付面で不利益を受けますが、それ以前に人命にかかわる危険行為です。この機会に、今一度、全社的に注意を喚起すべきでしょう。

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