判例 定年再雇用者でも整理解雇可能 (2012年5月号より抜粋)  
   

 

 
 

高年齢者法の効果およばず 継続雇用拒否に合理的理由

「希望者全員65歳まで雇用」を義務付ける高年齢者法改正案が、世間的な注目を集めています。しかし、「いかなる場合も雇用を保障する」趣旨ではありません。経営再建を進めるなか、やむを得ず再雇用の中止」等を行ったケースで、裁判所は社会通念上相当性があれば、継続雇用しないことも認められると判示しました。

F社事件 大阪地方裁判所(平23・8・12判決)


現行の高年齢者法では、定年退職者等の再雇用に際し、労使協定により基準を定めれば、対象者の選別が可能としています。逆にいえば、定年退職者は基準を満たす限りは、再雇用される権利を持つという理屈になります。

さらに、高年齢者法の改正が決まれば、「希望者全員65歳まで雇用」が原則となります。

高年齢者法による継続雇用の義務付けに関しては、「若年者の就業機会を狭める」と反対する声が聞かれます。しかし、もっと根本的な問題が存在します。仮に「希望者全員65歳雇用」が義務付けられたとします。会社の土台が傾き・40歳代等の働き盛りの世代をリストラせざるを得ない事態が発生した場合であっても、60歳代前半高齢者の雇用を守る義務があるのでしょうか。これは、常識から考えると、明らかに変です。

本事件は、この問題に関し、優先順位を明らかにするものです。被告会社は建設会社で、バブル経済崩壊後・長期にわたり経営不振にあえいできました。そうした苦境の中でも、高年齢者法の規定に従い定年退職者の再雇用制度を整備し、運用してきました。

しかし、リーマンショック後、一段と業況が悪化し、平成21年度は100億円を超える損失を出すに至りました。会社側は、役員報酬カット、希望退職募集、派遣契約の解除等を実施すると同時に、再雇用制度の一時中止を労組側に申し入れました。

未だ労組と合意に至らないなか、会社側は定年到達者の再雇用拒否、再雇用者の雇止めに踏み切りました。これに対し、対象となった高齢者が、地位の確認等を求め、裁判を提起しました。

裁判所は、「継続雇用制度の対象者について協定で定められた具体的客観的な基準に合致する者については、『原則として』継続雇用を拒否することは許されない」というルールを改めて確認しました。その一方で、「その他の事情(経営不振による雇用継続の困難性等)によって、雇用の継続が困難と認められる客観的に合理的な理由があり、雇止め等が社会通念上相当であると認められる場合には、継続雇用しないことも許される」と述べました。

結論としては、被告会社では人員削減の必要性が高度に認められ、人員削減の回避策が講じられ、誠意を持った交渉等が行われていた等の事情を踏まえ、雇止め等は有効という判断を下しています。

高齢者雇用より整理解雇の必要性が優先するという当然の理屈ですが、高年齢者法の解釈・運用に当たって「誤解を一掃する」モデル裁判例といえるでしょう。

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