判例 事業譲渡で1人だけ承継拒否 (2017年5月号より抜粋)  
   

 

 
 

受け入れ先に選考の権限 全員再雇用する義務は無い

事業(会社)が譲渡されるとさ、「従業員の承継」という問題がつきまといます。本事件では、病院の経営主体が変わる際、院長を除くすべての希望者が継続して雇用されました。院長は解雇権濫用と主張しましたが、裁判所は、誰の雇用契約を承継するかは譲り受け先がその裁量において選考でき、解雇は有効と判示しました。

K振興団事件 東京高等裁判所(平27・2・17判決)


企業再編の手段として、合併、事業譲渡、分割等が挙げられます。合併の際はすべての権利が「包括承継」されますが、事業譲渡の場合は権利の選別(個別承継)が行われるといいます。

原則論について学説・判例等の意見はおおむね一致していますが、個別の事案に当てはめるときは、やはり解釈が難しいケースもあります。

本事件では、病院の経営主体が変わりました。独立行政法人とA法人の間で締結されていた経営委託契約が終了し、A法人は解散し、新法人(B)が経営を引き継ぎました。

A法人は、解散に当たって職員の解雇手続を行いました。

一方、B法人は引き続き就労を希望する職員を雇用しましたが、院長(C)だけは例外でした。ただ1人、「蚊帳の外」に置かれた院長は、もちろん、承服しません。

「職員がA法人から解雇されたといっても、それは名目的なもので、院長を除いて全員がB法人に雇用されたのだから、権利の濫用であって無効」と主張し、裁判を起こしました。

判決文では、まずA法人による解雇について、「事業の不能により解散して清算手続中であり、解雇は就業規則上の『事業上の都合によりやむを得ないとき』に該当し、有効」と述べました。

C院長は、整理解雇の4要件(人員削減の必要性、解雇回避努力、対象者選定の妥当性、手続きの妥当性)を満たしていないと論じましたが、裁判所は「事業の廃止に伴う解雇」に4要件をそのままの形で当てはめる必要はないという判断を示しました。

C院長1人が排斥された点については、「B法人における職員の採用について、A法人の雇用契約が当然に承継されるものではなく、C院長を除く全ての希望者がB法人に雇用されたものであるとしても、それはB法人の選考による結果である」と述べ、権利濫用に当たらないとしました。

非情な判断のようにもみえますが、病院経営の再編に伴うやむを得ない事情がありました。判決文では、「C院長がB法人における定年年齢を超えていたことや病院の診療科目との関係で整形外科を専門とする医師を病院長とすることが望まれたことなどの理由が示されており、(略)差別的取り扱いが行われたとみることはできない」と述べています。

生命のない法人が姿を変えて存続を続ける一方で、人が切り捨てられた格好です。しかし、企業再編の法理からみれば、これも仕方のない結果といえます。

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