判例 70時間の固定残業代も合法 (2017年7月号より抜粋)  
   

 

 
 

特別条項で対応可能 違法とまでは言えない

時間外割増の定額払制は、一定条件の下で合法とされています。しかし、本事件で、会社は「月70時間相当等の割増賃金を定額で支払う」と定めていました。元従業員は「36協定の限度基準(月45時間)を超え、無効」と訴えましたが、1・2審ともに「特別条項を無効とすべき事情もなく、違法性はない」という判断を示しました。

X社事件 東京高等裁判所(平28・1・27判決)


最初に、「定額払制」の復習をしておきましょう。

時間外・深夜・休日労働の割増賃金については、労働基準法で細かな計算方法が規定されています(37条)。しかし、必ずしも法所定の算式に従う必要性はなく(昭24・1・28基収第3947号)、定額で払うことも、次の条件を満たせば可能とされています(関西ソニー販売事件、大阪地判昭63・10・26など)。

  • 定額の手当が、法所定の金額を下回らない(足りないときは、清算がなされる)

  • 法所定の額が支払われているか否か確認できるように、割増賃金相当部分が区別されている

一方、時間外の上限は告示(「時間外労働の限度基準」平10労働省告示第154号)で、月45時間、年360時間等と定められています。ただし、特別条項(エスケープ条項)を結べば、これを超えることも可能です。

定額払制で、基準となる残業時間数を低めに設定すると、すぐに追加清算が必要になってしまいます。このため、会社は「月当たり時間外70時間、深夜労働100時間分相当」の業務手当(時間外の定額払分)を支払うと定めていました。

つまり、限度基準(月45時間)を超えるような残業(下手をすると過労死になりかねないような残業)が毎月行われても、追加の残業代支払はないということです。

従業員側は、「このような長時間労働を予定した定額の割増賃金の定めは全部または一部が無効」と主張しました。一応、常識的には(労働者サイドに立てば)もっともといえなくもない話です。

しかし、裁判所は「労働省告示で定める限度基準は時間外労働の絶対的上限とは解されないし、会社は特別条項を定めており、特別条項を無効とすべき事情は認められないから、業務手当が月70時間等を目安としていたとしても、違法になるとは認められない」と判示しました。

定額払制で基準となる時間外数は「マックス」のもので、毎月70時間働かせるわけではないので、違法とまではいえないということのようです。

現行の法律規定に基づいて考えれば、このような結論になるのは当然でしょう。ちなみに、本事件は確定しています。時間外規制の在り方について、現在、法改正に向けた議論がなされている点は、皆さんもご承知のとおりです。上限規制の甘さ(特にエスケープ条項の在り方)に対する批判が出てくるのも、こうした判決をみる限り、ムリからぬところともあるといえそうです。

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