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判例 労働者以外にも安全配慮義務がある (2018年1月号より抜粋)

野球試合中のケガで求償 危険を知らない観客もいる

 

会社の経営活動に関連してケガ等を負うのは、労働者ばかりではありません。本事件は、野球場で一般観衆がファウル・ボールに当たり、失明したものです。高裁(2審)は、野球に関する知識に乏しい保護者(女性)に対する安全配慮義務を怠ったとして、球団に対して3,000万円超の賠償金の支払いを命じました。

 

Sドーム事件 札幌高等裁判所(平28・5・20判決)


 

今回はちょっと目先を変えて、一般公衆のケガに関する判例をご紹介しましょう。

 

職場の安全に関しては、労働安全衛生法等の安衛法令が整備されています。しかし、事業活動が行われている場所には、労働者以外の人も立ち入ります。

 

代表例が、建設業の「公衆災害」です。建設現場の近くを通行する一般人がケガをすれば、当然、建設業者がさまざまな法的責任を追及されます。通行人のほか、店の顧客、イベントの観衆等についても、会社は安全の確保に関する配慮が求められます。

 

本事件は、野球場が舞台になります。テレビ・新聞等でも大きく取り上げられたので、ご記憶の方も少なくないでしょう。試合中に打者が放ったファウル・ボールが、夫・子供3人と観戦に来ていた母親を直撃しました。被害者は、右顔面骨折・右眼球破裂という重症を負いました。

 

ファウル・ボールの危険性は、野球関係者であれば当然予測できるものです。裁判では、「野球球団(A社)」「ドーム管理会社(B社)」「ドーム所有者(C市)」を被告として、工作物瑕疵責任や安全配慮義務違反の有無が争われました。

 

1審(札幌地判平27・3・26)は、被告3者それぞれの義務違反を認めました。しかし、2審では工作物瑕疵責任が否定され、A社に対してのみ、安全配慮義務違反に基づく賠償金支払いが命じられました。賠償金額は3,357万円(2割の過失相殺)です。

 

まず、工作物瑕疵(工作物に瑕疵があったとき、その占有者が被害者に損害賠償する責任を負う)ですが、原告は「フェンスに十分な高さがなかった」と主張しました。これに対して、高裁は「他の球場と比較しても特に低かったわけではなく、通常の観客を前提とした場合に、相応の合理性を有していた」と判示しました。

 

一方、安全配慮義務違反ですが、被害者が野球ファン(通常の観客)でなかった点が考慮されました。判決文では、「A社は新しい客層を積極的に開拓するため、保護者の同伴を前提として小学生を招待する企画を実施した」にも関わらず、「被害者のような保護者(観戦経験ゼロ)を対象として、危険性が相対的に低い座席を選択し得るようにする等の『より一層安全に配慮した対策』を講じる義務」を怠ったと指摘しました。

 

本事件からは、「一般公衆を相手とする場合、事業主は、顧客の多様性(年齢、性別、健康状態、関連常識の有無等)も広く考慮に入れる必要がある」という教訓を汲み取ることができます。