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精神疾患の疑いの社員を休業させたい (2018年2月号より抜粋)

メンタルヘルス不調が疑われる従業員に対して休業を命じられないか

 

Q 上司・同僚の話ですが、最近、従業員の1人の言動に異常がみられます。「心、ここにあらず」で、事故を起こしはしないかと心配しています。病院に行くよう勧めていますが、聞き入れません。労働安全衛生法には「病者の就業禁止」という規定があるそうです。同条文に基づき、強制的に休業させることは可能でしょうか。

 

A 本人の同意が無いと休業は命じられない

 

まず、興味深い判例をご紹介します(東芝事件、最判平26・3・24)。うつ病になった従業員が、会社に安全配慮義務違反等の賠償を求めました。

 

高裁では、神経科の通院歴等を会社に申告しなかった点が本人の過失として認められ、賠償額が2割減額されました。

 

しかし、最高裁は、「メンタルヘルス情報は、自己のプライバシーに属し、通常は職場において知られることなく就労を継続しようとする性質の情報である」と述べ、過失相殺を否定しました。

 

そのうえで、「過重な業務により体調の悪化が看取される場合、使用者は必要に応じて業務を軽減するなど心身の健康への配慮に努める必要がある」と説示しています。

 

ご質問の従業員の場合、メンタルヘルス不調と業務の関係は明確ではありませんが、会社としては異常を看取しています。本人が協力的でない場合、強制的な休業命令が可能なのでしょうか。

 

安衛法第68条では、病者を就業させることにより本人並びに他の労働者に及ぼす悪影響を考慮し、病者の就業禁止に関する規定を設けています。

 

以前は、対象者の中に「精神障害のために、自身を傷つけ、他人に害を及ぼすおそれのある者」が定められていました。しかし、現行の条文(安衛則61条)では、この部分が削除されています。

 

理由として、解釈例規では次のとおり、述べています(平12・3・30基発第207号)。

 

  1. 対象となる者については、精神保健福祉法に基づき都道府県知事が行う措置入院により就業禁止と同等の措置が担保されること
  2. 専門家ではない事業者に自傷他害のおそれについて判断させることは困難であり、人権確保の観点からも客観性・公平性の確保を図る必要性があること

 

ですから、安衛法を根拠とする措置という説明は成り立ちません。

 

いきなり休業という対応ではなく、本人の仕事ぶりを観察しつつ、まず業務負担の軽減・労働時間の短縮等の対応からスタートすべきでしょう。

 

この場合、本人にとっては、収入の減少につながる可能性があります。

 

定期健診等に基づく事後措置についてですが、「使用者が健診の結果を無視して労働時間を不当に短縮させた場合、休業手当の必要性が生じることもある」と述べた解釈例規があります(昭23・10・21基発第150号)。

 

本人に納得してもらったうえで、業務の軽減措置を講じます。「本人の気付き」を促すため、家族等にサポートを要請するといった対応も並行的に検討すべきでしょう。