ロゴ

 

判例 始期を早めた休職命令と退職無効 (2018年4月号より抜粋)

就業規則に反する 期間満了で退職とならず

 

休職発令のタイミングは、従業員の身分保障に大きく影響します。「フライング」て休職を発令すれば、それに連動して休職満了の期日も繰り上がります。本事件は、「事故当日から休職期間のカウントを開始し」、6ヵ月の期間満了で退職扱いとした事案です。裁判所は、就業規則の規定に反し、無効と判示しました。

 

石長事件 京都地方裁判所(平28・2・12判決)


 

大多数の会社では、主に正社員を対象として、私傷病休職の規定を設けています。傷病で労務を提供できない期間が長期にわたる場合、会社は普通解雇処分を検討することになります。私傷病休職は、一般に「解雇猶予措置」と位置付けられています。

 

重い傷病にり患した場合、最初は年休を消化しますが、残日数がなくなれば欠勤となります。欠勤期問が一定限度に達した時点で、会社は私傷病休職を発令します。

 

休職期間は、勤続年数等に応じて段階的に定められるのが通常です。休職期間が満了しても復職できないときは、自然退職(または解雇)となります。本事件で、A社の従業員だったBさんは、通勤災害により休養を余儀なくされました。

 

A社の就業規則では、私傷病休職に関し、以下のとおり定めていました。

 

休職:業務外の傷病により引き続き1ヵ月を超えて欠勤したとき
退職:休職期間満了後、復職ができないとき

 

Bさんは、交通事故にあった後、療養を続けていましたが、3ヵ月後に「軽作業であれば就業可能」と記載した診断書を会社に提出し、復職を求めました。しかし、会社は「6ヵ月間ちゃんと休む」よう促しました。

 

事故からまもなく6ヵ月が経過する頃、Bさんは手術を受けることになったため、会社と「今後の対応」について面談を行いました。会社は「休職期間が満了するので、いったん、退職してもらい、完治後に再雇用する」と空手形(からてがた)を切りました。

 

しかし、会社が再雇用の約束を果たさないため、Bさんは裁判で争う道を選択しました。

 

裁判所は、「Bさんに対して、休職期間は本件事故当日から6ヵ月という説明がなされた」「就業規則によれば、休職期間6ヵ月の起算日は、1ヵ月を超えた欠勤後である。「事故当日から休職とする休職命令は、就業規則上の要件を欠く休職命令であり、無効である」と判示しました。Bさんの退職願も再雇用を信じて提出されたものですから、同様に無効と判断されました。

 

私傷病休職は、早期の復職が困難な事実を確認してから発令されるので、通常は欠勤開始から1~2ヵ月後となります。

 

復職困難と判断した時点で、「事後的に休職発令日を事故当日に遡らせる」という処理方法にはムリがあります。ましてや就業規則には、明確に「欠勤1ヵ月後」と記載してあったのですから、会社の敗訴は当然の結果といえます。