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判例 手続き違反でみなし制が無効に(2018年10月号より抜粋)

適法な代表者が選出せず割増の清算要求認められる

 

裁量労働制は、労働量の変動に関係なく「労働時間みなし」で賃金計算できる便利な仕組みです。しかし、労基法に基づく手続きをキチンと履行することが前提条件となっています。本事件で、会社は労使協定を締結していましたが、過半数代表者の選出等に問題があり、裁量労働制の適用要件を満たしていないと判示されました。

 

О工房事件 東京地方裁判所(平29・4・26判決)


 

本事件は、寺社等の絵画制作・建造物の彩色等を行う会社(A社)で起きたものです。

 

A社では、業務担当のデザイナーに対して、専門業務型裁量労働制を適用していました。

 

しかし、デザイナーであれば自動的に裁量制の対象になるわけではなく、法定の要件を備える必要があります。

 

具体的には、労使協定の締結と就業規則の改定・周知が欠かせません。A社では、「形式的には」協定の締結等を済ませていましたが、本事件ではその「実態」が問題になりました。

 

労使協定の不備が問題になった事案としては、36(時間外・休日労働)協定に関する「トーコロ事件、東京高判平9・11・17」が有名です。同事件は、懇親会(友の会)の代表者が「自動的に」過半数代表者を務めていた事案で、判決では残業命令は無効と判断しています。

 

36協定以外についても理屈は同様で、代表者の選出手続きに瑕疵があれば、労使協定の効力そのものが否定されます。

 

A社では、従業員Bが過半数代表者となって契約を締結していました。しかし、判決文によると、「Bが過半数代表者とされた際の選出の手段、方法は不明であり、協定届上『推薦」とあるが、B本人および原告労働者Cを含む従業員合計6名は、いずれもBを代表者として選出する会合や選挙を行ったことはないと述べている」という状況でした。

 

一方で、就業規則の周知義務も適正に履行されていませんした。A社は「従業員が使用していた全てのパソコンから閲覧可能だった」と主張しましたが、裁判所は「労働組合の団体交渉時も、そのような説明は一切されていないことからすると、会社の述べるところは到底信用することができない」と厳しく糾弾しています。

 

結論として、「専門業務型裁量労働制を採用したことにより勤務時間の定めがCらに適用されない」という会社側の主張は否定されています。つまり、時間外労働に応じた割増賃金の支払が必要ということです。

 

ちなみに、改正派遣法では過半数代表者等の意見聴取を条件として派遣可能期間の延長を認めています。

 

しかし、代表者選出に問題があると、延長の効果が認められず、「労働契約申込みみなし制度(派遣先が直接雇用の義務を負う)」が適用されます。

 

特に中小・零細企業では、労使協定の手続きに不備がみつかるケースが少なくありません。後々のトラブルの種とならないよう、早急な改善努力が求められます。