実務相談 二重処罰(2019年6月号より抜粋)
セクハラ加害者に懲戒科す前に自宅待機を命じたいが問題ないか
Q 当社の従業員が、派遣労働者に対してセクハラ行為を繰り返していると苦情が寄せられました。被害者の感情を考えて、処分を決定する前に自宅待機を命じ、調査結果が判明した後、懲戒処分を科す方針です。しかし、総務部内には「二重処罰」に該当するのではと懸念する声もあります。どのように対処すべきでしょうか。
A 休業手当の支払いは必要
まず、派遣労働者の取扱いを確認しましょう。貴社は派遣先に当たり、派遣労働者の直接の雇用者ではありません。しかし、派遣法の読替規定(第47条の2)により、派遣先「も」、事業主としてセクハラに対処する義務を負います(均等法11条)。
派遣労働者は、派遣先・元のいずれに対しても苦情を述べることができ、派遣元経由で報告があった場合も、貴社として適切な対応を取る必要があります。
事実関係を迅速・正確に確認し、「被害者に対する配慮のための措置」を行うとともに、懲戒処分等を実施します(セクハラ指針)。
貴社では、「被害者の感情を考慮し」、先に自宅待機を命じる方針ということです。ただし、ご質問にある「二重処罰」の問題について留意が求められます。
憲法第39条では、「同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない」としています。企業内の懲戒処分に関しても、判例では「一事不再理(二重処分)の法理の適用がある」という立場を採っています。
つまり、先に「懲戒処分として」、自宅待機を命じると、調査の結果、重大な規律違反が立証されても、追加の処分ができません。だからといって、調査が終了するまで、被疑者の出勤を認めるのは、適切とはいえません。選択肢はいくつか考えられますが、「業務命令として」自宅で待機させるという方法も有力です。
この場合の賃金ですが、判例では「不正行為の再発防止等の緊急かつ合理的な理由があるとき」等を除き、支払い義務があるとしています(日通名古屋製鉄作業事件、名古屋地判平3・7・22など)。ストーカー的行為のおそれ等があれば話は別ですが、一般論として無給は難しいでしょう。
自宅待機といっても、「会社から指示があるまで、文字どおり、自宅で待機させる(連絡があれば、直ちに業務に就くことができる状態にさせておく)」タイプと、「実質的には休業を命じる」タイプの2種類があります。ご質問のケースでは、「被害者との隔離」が目的ですから、後者の対応で十分でしょう。休業ですから、基本的には平均賃金の60%の支払いで足りると考えられます。
セクハラ調査が目的で、期間も想定範囲内であれば、合理的な休業理由として認められるはずです。
ただし、セクハラが明らかに冤罪で不当に休業を強いた場合には、従業員側から全額の賃金支払(民法第536条2項)を求められる可能性もあります。他の従業員の客観的意見も聴取のうえ、対応を検討すべきでしょう。