判例 目撃者はいないが労災と主張(2019年6月号より抜粋)
業務上の災害は、しばしば誰もみていない場所で発生します。本事件で、トラック運転手は「過労により、降車の際に墜落して」障害が残りました。会社は当初の報告と異なる等と反論しましたが、裁判所は、過重な労働実態を考慮し、従業員側主張に軍配を上けました。安全配慮義務違反で900万円余の支払いを命じています。 c運送事件 千葉地方裁判所八日市場支部(平29.4.14判決)
過労が原因で墜落と認定 長間労働の実態あった
労災保険は、「業務上の事由等による労働者の傷病等に対して」保険給付を行います。ですから、保険給付の請求書には、「災害の原因・発生状況」「事実を確認した者の職名、氏名」等も記載します。
確認した者(現認者)の欄には、「最初の発見者の職名・氏名」を書きますが、同一事業場の従業員でなくても構いません。該当者がないときは、記載の必要はないとされています。
本事件で、トラックの運転者Aさんは「業務終了時に、降車する際に転落して右手に障害を負い」、障害等級10級の認定を受けました。本人は、過重労働の結果、事故が起きたと主張しますが、目撃者はいませんでした。
労災保険から休業補償給付・障害補償給付を受けましたが、Aさんは、それとは別に「会社は安全配慮義務を怠った」として、損害賠償を求める裁判を提起しました。
これに対して、会社(B社)は、「本人からは降車時の転落ではなく荷台の片付けをしているときの事故だと報告を受けた。会社が指定した病院に行かずに、わざわざ事業所から遠い病院で治療を受けていて、事故は本人の主張する態様ではない」などと反論しました。
目撃者不在の中で、労使の論戦は平行線をたどりますが、裁判所は、勤務実態を重視しました。
判決文では、「Aさんは、1日に10時間程度10トントラックを運転し、その間に10キロ程度の箱を相当数荷台に積み上げ、積み下ろすという作業を行っていた。加えて、休日のほか帰宅できず、始業・終業の間の時間や業務中の仮眠時間などが短く限られたものであったことを考えると、疲労が相当程度蓄積していたことは明らか」と述べています。
トラック運転者については、一般の労働者とは異なり、「自動車運転者の改善のための基準」(平元・労働省告示第7号)が定められ、拘束時間・休息期間等について細かな規制が設けられています。
裁判所は、「告示は、B社の安全配慮義務を『直接規律するものではない』としても、安全配慮義務の内容、違反の有無、程度を判断されるために十分考慮されるべきもの」という見解を示しました。
そのうえで、この告示に著しく反する形で労働スケジュールが組まれていたことから、「会社は十分な休息を与えるなど、適切な措置をとるべき安全配慮義務に違反した」と結論づけています。
事故の真相はグレーですが、過重労働の事実は明らかで、結果として、会社は日頃のずさんな労務管理のツケを支払わされる形になったともいえるでしょう。