未消化分の処理 (2019年7月号より抜粋)
2週間前に退職願を出した社員から残年休の買上げ要請受けた
Q 従業員から2週間前に、退職届の提出がありました。在籍期間も長く、勤務成績も普通以上だったので、「突然の決断」という印象は免れません。「消化できなかった年休は消滅する」と説明したところ、買上げを要求されました。本人は「会社が、残日数を適宜、通知していれば、こんな事態は発生しなかったはず」と担当者を非難しますが、会社側のミスということになるのでしょうか。
A 原則的には権利が消滅
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勤続期間が6年半以上の場合、フル覇タイム勤務者の年休付与日数は20日です。年休の消滅時効は2年(労基法第115条)ですから、最大で40日の残日数が生じている可能性があります。
退職日までに年休を消化できないときの取扱いですが、解雇に関して次のような解釈例規が出されています(昭23・3・26基発651号)。「年休の付与を会社都合により延期している場合には休暇日数に応じた平均賃金を支払うのが妥当か」という問に対し、「年休の権利は予告期間中に行使しなければ消滅する」と回答しています。
解雇日は会社が指定しますが、退職日は従業員が選択します。ですから、本来は、従業員がすべて消化できる日程を考えて、退職日を決めるべきといえます。
一方、会社の就業規則では、民法の規定を踏まえ、「退職願は2週間前までに提出する」と定めている例が大多数です。「前まで」ですから、それより早いタイミングで提出しても問題ないのですが、従業員は杓子定規な対応を取ってしまったようです。
会社としても、事前に相談してもらった方が、後任人事等の対応を決める時間的余裕が生まれます。したがって、日ごろから「できれば1ヵ月前に出す」よう周知(お願いべ一ス)することは可能です。
退職後の就職先が決まっていなければ、年休の残日数に応じて、労使の話し合いにより、退職日を後倒しにすることも可能です。しかし、退職の翌日から別会社で勤務するようなケースでは、期日変更は不可能です。
お尋ねのケースでは、退職日の変更ができないので、年休の買上げという話になったのでしょう。この点については、「年休の取得を抑制する効果があり好ましくない」という考え方が示されています(労基法コンメンタール)。ですから、就業規則等で「消滅分は日数分に応じた平均賃金を支給する」等のルールを明記するのは避けるべきです。ただし、「やむを得ない場合に調整的に金銭の給付をすることは、事前の買上げと異なり本法に違反しない」ともされています。
年休の残日数の通知に関しては、給与明細等に記載する方法を取る会社も多いようですが、法的には具体的ルールが定められていません。
ただし、平成31年4月1日からは、改正労基法(働き方改革関連法の一部)により、「年休の管理簿作成」が義務付けられた点には留意が求められます。会社として、通知の方法等も整備しておくのがベターでしょう。