判例 有期社員でも家族手当ほしい(2019年7月号より抜粋)
労契法で「有期社員に対する不合理な格差」が禁じられて以来、正社員並みに家族手当等を受けたいという訴訟が増えています。本事件の原告である有期従業員は、正社員と同一業務でしたが、責任レベルに差がありました。しかし、裁判所は、生活補助的な手当について、有期を理由として格差を設ける合理性はないと判示しました。
I製造所事件 松山地方裁判所(平30.4.24判決)
生活面の必要に差なし
現在、有期労働契約で働く労働者は、正社員と待遇面で格差がある場合、労契法第20条(平成25年4月1日施行)を根拠として裁判で争っています。
平成32年4月1日からは、パート・有期雇用労働法に根拠規定が移されます(文言も一部修正)。改正法施行後、正規と非正規(パート・有期雇用労働者・派遣労働者)間の格差に関しては、「不合理な待遇の禁止等に関する指針」(平30・厚労省告示第430号)が実務上の判断基準となります。
しかし、指針では、基本給・賞与・通勤手当等に関する取扱いは具体的に記載していますが、家族手当・住宅手当については、独立した項目として説明が付されていません。ですから、今後も、これらの手当に関しては、判例が重要な判断材料になると考えられます。
本事件は、製造ラインで働く有期契約社員が、無期契約社員との格差是正を求めて提起したものです。訴えの内容は多岐にわたりますが、本欄では、家族手当と住宅手当を取り上げます。
労契法第20条では、格差の合理性について
①業務の内容・責任の程度(職務の内容)、
②職務の内容・配置の変更の範囲(人材活用の仕組み)、
③その他の事情を考慮して判断するとしています。
以上3点に関する裁判所の判断は、次のとおりです。
①業務の内容については、「同一の製造ラインで働いており、大きな差はない。一方、責任の程度に関しては、無期のみが事故時の再発防止・改善対応の責任を負っている」
②人材活用の仕組みに関しては、「無期は、継続的な教育訓練と長期間の勤務経験を積みながら育成されるものと認められる」
③その他の事情については、「無期のうち多数が有期から中途採用されており、無期・有期の地位が必ずしも固定的でない」
つまり、①の一部(責任の程度)と②に関しては、有期にとって不利な(格差に合理性が認められ易い)条件であったといえます。
しかし、判決文では「家族手当は生活補助的な性質を有しており、労働者の職務内容とは無関係に、扶養家族の人数等に着目して支給されている」「住宅手当も住宅費用の負担を補助する趣旨と認められ、有期であっても住宅費用を負担する場合があることに変わりはない」と述べ、両手当ともに有期契約社員に対する不支給は不合理と結論付けました。
この論理構成をみる限り、生活補助手当に関し、有期・無期で差を設けるのは、なかなか難しいという印象です。