ロゴ

 

判例 同居後も単身赴任手当を受給(2019年8月号より抜粋)


手当の不正受給は、もちろん企業の秩序違反行為です。しかし、その実態は「うっかり」から「確信犯」までさまざまです。本事件は、子と1もと同居後も単身赴任手当等を受給し続けていたもので、裁判所は「故意に会社に損害を与えた」として懲戒解雇有効と判示しました。ただし、退職金は4割相当の支払いを命じています。k社事件 東京地方裁判所(平30・5・30判決)

 

「確信犯」で不正続ける反省もなく懲戒解雇有効

就業規則(賃金規程)では、各種賃金項目の支給要件等を細かく定めます。特に生活関連の手当や通勤手当については、本人から扶養や住居の状況、通勤経路等について証明書類等の提出を求めるのが普通です。
しかし、個人の事情に属する事柄に関しては、「本人の申告頼り」という一面もあります。単純ミス・虚偽報告等を理由とする手当の過払い・過少払いは、賃金実務上、珍しい話ではありません。
単純ミスの場合は、不正利得を返還してもらえばそれで問題解決です。しかし、意図的な不正があったときは、それに加え、行為者に対して懲戒処分を科す必要があります。本事件の原告は、総合職の正社員として30年近く、会社(A社)に在籍していた女性(Bさん)です。
Bさんには子ども(長女)がいましたが、別居だった時期と同居だった時期が混在します。東京都内で転勤があった際には、r長女は練馬区の自宅に残る」と虚偽申告し、単身赴任手当、本人赴任手当、帰省旅費を不正に受領しました。その後、借上げ社宅(単身者用マンション)で、長女と同居をしていましたが、約3年間にわたり、単身と偽って社宅使用料の支払いを免れていました。
事実発覚後、会社はBさんを懲戒解雇すると同時に、就業規則に照らして退職金を全額不支給としました。これに対して、Bさんが地位確認と退職金の支払いを求めて裁判を起こしたものです。
裁判所は、不正の一部について「必要な届出を怠った不作為であり、企業秩序を乱したものでない」としながらも、主要部分に関しては「事前に就業規則・申請システムの注意書きの内容を確認することにより、自身が単身赴任基準を満たさないことを認識していたにもかかわらず、虚偽の事実を入力していたもの」であり、就業規則の懲戒解雇事由に該当すると判示しました。
解雇はやむを得ないとして、Bさんは総合職として長期勤続していたので、退職金額は小さくありません。この点に関し、判決文では「A社における退職金(一時金)は、賃金の後払い的性格および功労報酬的性格が強く、不支給または減額支給できるのは、長年の勤続の功を抹消・減殺するほどの著しく信義に反する行為があった場合に限られる」と述べ、6割不支給が限度と結論付けました。
「確信犯」的な不正受給があっても、退職金の全額不支給が認められるとは限らない点には、注意を要します。