判例 定額の住宅手当と割増賃金 (2010年6月号より抜粋)  
   

 

 
 

定額の住宅手当は割増賃金の算定基礎に含む

割増賃金を減らす方法は、時間外労働そのものを減らすか、割増の計算方法を変更するか、どちらかに絞られます。本事件で、会社は、労働組合と協定を締結したうえて、皆勤手当、住宅手当等を算定基礎から除外しました。しかし、裁判所は、労使が合意したとしても労働基準法に反する賃金の計算方法は認められないと判示しました。

Y海運事件 東京地方裁判所(平21.3.17判決)


景気の足元が不安定ななか、平成22年4月1日からは改止労働基準法が施行され、割増賃金の引き上げも実施されています(中小は一部適用猶予)。割増賃金のコストアップは避けたいけれど、稼働率は下げたくないのが、企業の本音でしょう。

本事件の被告は自動車運送会社ですが、業界内外の逆風状況を踏まえ、労働組合と協定を結び、「手当(住宅手当、皆勤手当、無事故手当)の一部または全部を時間外手当の単価計算の算定基礎から外す」制度改定を実施しました。

経営首脳の気持ちは理解できますが、いささか無茶な対応というほかありません。なぜかというと、「労働基準法で定める基準に達しない労働条件は、無効とする。無効となった部分は、この法律で定める基準による」(労働基準法第13条)と規定されているからです。

労働基準法では、割増賃金の算定基礎から除外できる賃金項目を、「限定列挙」しています(労働基準法施行規則第21条)。

  1. 家族手当

  2. 通勤手当

  3. 別居手当

  4. 子女教育手当

  5. 住宅手当

  6. 臨時に支払われた賃金

  7. 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

これに照らすと、まず皆勤手当・無事故手当は、1.から7.のいずれにも該当しないので、除外はムリという結論になります。会社は、7.に当てはまるとみせかけるために、2か月ごとに支払う賃金項目への変更をもくろみましたが、労働基準監督署から是正勧告を受けて、改正を撤回しています。次に、住宅手当ですが、5.でいう手当に該当するか否かについて、行政解釈で基準が示されています(平11・3・31基発第170号)。「住宅に要する費用に応じて算定する手当をいうものであり、費用に定率を乗じた額とすることや、費用を段階的に区分し費用が増えるにしたがって額を多くすることをいう」と解説されています。

裁判所は、「従業員の支出している額によるものでないから、算定基礎から外す行為は労働基準法に違反する」と断じました。会社にとって、最後のよりどころは、労組との合意を経た改定であるという点ですが、法に反する労使協定は当然のことながら無効と判断されました。

当面、割増賃金の計算方法を変更する予定のない会社でも、改正労働基準法の施行に合わせ、もう一度、法に適合する形で処理されているか、自己チェックが必要といえます。

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