判例 二重就労者の解雇が無効に (2004年8月号より抜粋)  
   

 

 
 

勤務状況に影響ない 兼業禁止措置も不徹底

大半の会社では、就業規則に「兼業禁止」の規定を置いています。しかし、現実にそれを根拠に解雇しようとすると、簡単にはいきません。本件は、医師が就業時間外にアルバイトしていた事案ですが、医師の二重就職は珍しくないこと、業務に支障が出たという証拠もないことから、解雇は権利濫用で無効と判断されました。

大阪地方裁判所(平15・11・7判決)


昔は、借金を抱えた人が、会社に隠れて、夜間・休日にアルバイトするというパターンが普通でした。しかし、このところの景気低迷で、リストラされたものの、好条件の再就職先が見つからないという人が増えています。そういう人が、従前の収入を確保するために、二重就職するという話は、珍しくなくなっています。会社としては、自社の仕事に専念して欲しいので、就業規則には兼業禁止の規定を置くのが普通です。就業規則違反が発覚した場合、会社はそれを禁止することができるのでしょうか。さらに、一歩進んで、解雇することができるのでしょうか。これは、意外に難しい問題です。

なぜかというと、会社は従業員の生活時間全部を支配できるわけではありません。勤務時間外は、個人が自由に使ってよい時間です。会社がこの自由時間について口を出すことはできません。そこで、就業規則の合理的解釈という手続きが必要になります。

本件では、病院が二重就職の常態化を憂慮して、アルバイトする場合には届出を義務付ける規定を新設しました。しかし、医師は無届のまま、アルバイトを続けていました。

この医師については、人事面で経営サイドと意見の衝突もあったため、病院が無届の二重就職の問題を持ち出して、解雇に踏み切ったものです。

裁判所は、「就業規則の規定は、届出のない限り一切のアルバイトを禁止する趣旨とは解し難く、病院がアルバイトを黙認していたと認められる事情、アルバイトによって病院に不都合が生じたと認めるに足りる証拠がないこと」を考慮すれば、解雇は無効であると判示しました。

本件は、所定労働時間の短い医師という特殊性があります。余った時間、他院で働いて収入を得るのは、珍しいことではありません。事実、この病院では、届出の義務化以後も、実際に届け出た人間は皆無という状況にありました。黙認が、常態化していたわけです。

しかし、普通の会社でもダブルワーカーが増えている実情からみれば、今後、二重就職の問題は多発化の傾向を辿ると予測されます。「規定があいまいだからよくわからなかったので、就業規則に『無許可・無届の兼業は全面禁止する』と、書いてしまえばよい」、そう考える経営者もおられるでしょう。

しかし、いくら就業規則の形式を整えても、最終的には、「合理的な解釈」というプロセスを経るので、「業務に著しい支障をきたす」といった理由をつけるなど、二重就職問題を防止しなければなりません。こうした問題は当事務所にご相談ください。

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